会社が役員に金銭を貸し付ける場面の契約書。会社法第356条の利益相反取引に係る取締役会承認と、民法第589条の利息の定めを併せて整理した書式。

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役員貸付金契約書

第1部: 書式本文

役員貸付金契約書

会社【甲の商号】(以下「甲」という。)と役員【乙の氏名】(以下「乙」という。)は、甲が乙に対し金銭を貸し付けるにあたり、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。本契約は、会社法第356条第1項第2号に定める取締役と会社との間の利益相反取引に該当することを前提に締結するものである。

第1条(利益相反取引の承認) 本契約の締結に先立ち、甲は【取締役会/株主総会】において、乙を取締役とする本貸付けについて会社法第356条第1項の承認を受けた。乙は当該決議において、会社法第369条第2項の規定により特別の利害関係を有する取締役として議決に加わっていない。

第2条(貸付け) 甲は乙に対し、令和【 】年【 】月【 】日、金【 】円を貸し渡し、乙はこれを受領し、民法第587条の規定に基づき返還することを約した。

第3条(利息) 乙は甲に対し、元本に対する年【 】パーセントの割合による利息を支払う。当該利率は、民法第589条の規定を踏まえ、甲乙間で合意した利率とし、無利息又は市中金利を著しく下回る利率とする場合には、乙において所得税法上の経済的利益として課税される可能性があることを乙は了知する。

第4条(返済方法) 乙は甲に対し、元本及び利息を、令和【 】年【 】月から令和【 】年【 】月まで、毎月の給与支給日に金【 】円ずつ分割して返済する。ただし、労働基準法上の賃金全額払いの原則に配慮し、返済は乙の給与から自動的に控除する方法によらず、乙が別途甲の指定口座へ振り込む方法によるものとする。

第5条(期限の利益の喪失) 乙が本契約に基づく債務の履行を怠ったとき、乙が甲の取締役の地位を失ったとき、その他乙の資力に重大な変化が生じたときは、乙は当然に期限の利益を失い、残債務を直ちに一括して弁済する。

第6条(退任時の取扱い) 乙が甲の取締役を退任するときは、退任日までに残債務の返済方法について甲乙協議の上、別途合意する。当該合意に至らない場合、甲は乙に対し、退任日から【 】か月以内の一括返済を求めることができる。

第7条(みなし利益供与の禁止との関係) 甲及び乙は、本契約に基づく貸付けが、会社法第120条に定める株主の権利行使に関する利益供与に該当しないことを確認する。

第8条(開示) 甲は、本契約の内容を、会社法第365条第2項に基づく取締役会への報告その他法令が定める方法により、適時に開示するものとする。

第9条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 会社(貸主)の立場

修正後: 第1条に、承認機関を「取締役会設置会社においては取締役会、取締役会非設置会社においては株主総会」と場合分けして明記し、自社の機関設計に応じた承認手続を特定する。 一言解説: 会社法第356条第1項の承認は取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では株主総会が権限機関となる(会社法第365条第1項参照)。機関設計を誤ると承認決議自体が無効となるおそれがある。

追加条文例: 「甲は、本契約締結後最初に開催される取締役会において、本取引の重要な事実及び結果を報告する」との事後報告条項を追加する。 一言解説: 会社法第365条第2項は取締役会設置会社において利益相反取引後の重要事実の報告を求めており、承認決議だけでなく事後報告まで契約上明確にしておくことが望ましい。

B. 役員(借主)の立場

修正後: 第3条の利率について「甲の資金調達コストと同等の利率とし、無利息とはしない」旨を明記し、無利息貸付けによる経済的利益課税のリスクを回避する。 一言解説: 役員が会社から無利息又は低利息で貸付けを受けると、本来支払うべき利息相当額が所得税法上の経済的利益とみなされ、給与所得として課税される可能性がある。乙としては課税関係を明確にしておく方が後日のトラブルを避けられる。

追加条文例: 「乙は、本契約に基づく借入れの事実及び残高について、有価証券報告書その他の開示書類における関連当事者取引としての開示に協力する」との協力条項を加える。 一言解説: 上場会社等では役員に対する金銭の貸付けが関連当事者取引として開示対象となる場合があり、役員としても開示への協力を契約上明確化しておくことが望ましい。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面

本書式は、会社が取締役等の役員に対して金銭を貸し付ける場面、例えば住宅資金や一時的な生活資金の融通を行う場合に使用することを想定している。他方、実質的に役員報酬の前払いや賞与の代替として貸付けの形式を取る場合、あるいは返済の見込みがないまま名目上貸付けとする場合には、会社法上の利益供与規制や税務上の役員賞与認定のリスクが高いため、本書式をそのまま用いるべきではない。

根拠法令の解説

取締役が会社との間で行う金銭消費貸借は、会社法第356条第1項第2号が定める取締役と会社との利益相反取引(直接取引)に該当し、取締役会設置会社では取締役会の承認(会社法第365条第1項)、非設置会社では株主総会の承認が必要となる。承認を欠く取引は無効とされるリスクがあり、また利益相反取引を行った取締役には任務懈怠の推定規定(会社法第423条第3項)が適用される点にも留意が必要である。利息の定めについては民法第589条が消費貸借における利息の要件を定めており、特約がなければ利息を請求できない。無利息又は低利息貸付けについては、所得税法上、本来受け取るべき利息相当額が経済的利益として給与所得課税の対象となる考え方が実務上存在する。

実務でよくある失敗と対策

第一に、取締役会の承認決議を経ずに、あるいは決議はしたものの利益相反取引としての明示的な議案として審議しないまま貸付けを実行してしまう例がある。議事録上、会社法第356条第1項第2号の承認である旨を明記することが対策となる。第二に、承認を要する取締役自身が議決に加わってしまい、会社法第369条第2項の特別利害関係の規律に反する例がある。当該取締役を議決から除外する運用を徹底すべきである。第三に、無利息貸付けを漫然と継続し、経済的利益課税の問題を認識しないまま長期間放置する例がある。利率設定の是非を定期的に見直すことが望ましい。第四に、退任予定の役員に対して駆け込み的に有利な条件で貸付けを行い、他の株主や取締役から会社の利益を害する取引であると疑義を持たれる例もある。退任時期が近い役員への貸付けについては、通常の稟議手続に加えて条件の妥当性を慎重に検討する運用が望ましい。個別事案は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 会社法第356条第1項第2号に基づく承認機関(取締役会又は株主総会)を特定したか
  • [ ] 承認決議において当該取締役が特別利害関係人として議決から除外されているか
  • [ ] 取締役会設置会社の場合、会社法第365条第2項の事後報告を予定しているか
  • [ ] 利率の水準について経済的利益課税のリスクを検討したか
  • [ ] 返済方法が労働基準法上の賃金控除の規律(給与天引きの可否)に抵触しないか
  • [ ] 会社法第120条の利益供与規制に抵触しないことを確認したか
  • [ ] 役員退任時の残債務の取扱いが定められているか
  • [ ] 上場会社等の場合、関連当事者取引としての開示要否を確認したか
  • [ ] 貸付金額・期間が会社の資金繰りに与える影響を検討したか
  • [ ] 議事録その他の承認手続の証跡が保存されているか