管理職手当の支給ルールを定める企業向け。役職ごとの支給額と休職時の取扱いを規定し、労働基準法第41条の管理監督者性の判断リスクにも配慮します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
役職手当規程
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本規程は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)の就業規則第【 】条及び賃金規程に基づき、役職手当の支給対象、支給額及び支給に関する取扱いを定めることを目的とする。
第2条(適用範囲) 本規程は、会社が任命する役職に就く労働者に適用する。役職手当の支給は、役職への任命をもって開始し、役職の解任又は異動をもって終了する。
第3条(役職の区分及び支給額) 役職手当は、次の区分に応じ、月額で支給する。 (1) 部長職:月額【80,000】円 (2) 次長職:月額【60,000】円 (3) 課長職:月額【40,000】円 (4) 係長職・主任職:月額【15,000】円 2 前項の役職区分及び支給額は、組織階層の見直しに応じて別表【〇】(役職手当支給基準表)により改定することがある。
第4条(管理監督者の範囲) 1 会社は、第3条第1号及び第2号に定める部長職・次長職その他会社が個別に指定する職位にある者のうち、次の各号のいずれにも該当する者を、労働基準法第41条第2号に定める監督若しくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という。)として取り扱う。 (1) 経営者と一体的な立場において、労務管理を含む経営上の重要事項の決定に関与していること (2) 自己の出退勤について厳格な時間的制約を受けず、労働時間に関する裁量を有していること (3) 役職手当その他の処遇が、その職責と権限に見合う水準として設定されていること 2 課長職以下の役職者については、管理監督者としての実態を有しない限り、原則として管理監督者として取り扱わない。 3 会社は、役職者の職務内容、権限及び勤務実態を定期的に確認し、管理監督者の該当性について実態と乖離が生じていないかを検証する。
第5条(管理監督者に対する労働時間管理及び割増賃金の取扱い) 1 管理監督者として取り扱う労働者については、労働基準法第41条第2号の規定により、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しない。 2 前項にかかわらず、管理監督者についても深夜業(午後10時から午前5時まで)に従事した場合は、労働基準法第37条第4項に基づき深夜割増賃金を支給する。 3 会社は、管理監督者に対しても、労働安全衛生法に基づく健康確保措置を講じるため、労働時間の状況を把握する。
第6条(役職手当の性質) 役職手当は、役職に伴う職責、権限及び労働時間管理上の裁量に対する対価として支給するものであり、時間外労働、休日労働又は深夜労働に対する割増賃金の代替としての性質を有しない。ただし、管理監督者に該当しない役職者(課長職以下で管理監督者性を有しない者等)については、別途割増賃金を支給する。
第7条(役職の異動及び手当の改廃) 1 役職の任命が解かれた場合、当該役職に係る役職手当は、解任の効力発生日の属する賃金計算期間の翌計算期間から支給しない。 2 上位役職から下位役職へ異動した場合、異動後の役職に応じた手当額に改定する。
第8条(休職時の取扱い) 1 私傷病休職、育児休業、介護休業その他の休業により労務の提供がない期間については、役職手当を支給しない。 2 前項にかかわらず、年次有給休暇の取得日その他労働基準法上通常の賃金を支払うべき日については、役職手当を支給する。 3 月の途中で休職を開始し、又は復職した場合の役職手当は、給与規程施行細則に定める日割計算の方法による。
第9条(兼務・代行の取扱い) 1 会社の命により一時的に上位役職を代行する場合、代行期間が【1か月】以上継続するときに限り、代行する役職に応じた手当を支給する。 2 複数の役職を兼務する場合の手当額は、原則として最も高い区分の役職手当のみを支給し、重複支給は行わない。
第10条(改廃) 本規程の改廃は、就業規則の変更手続に準じ、労働者の過半数を代表する者の意見を聴いたうえで行う。
附則 本規程は【20〇〇年〇月〇日】から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 大企業向け
大企業では役職階層が多く、部門や事業所ごとに同一の役職名でも職責が異なる場合があるため、役職名だけでなく職務評価(ジョブグレード)と連動させる書き換えが有効である。
修正条文例(第3条の書き換え): 「役職手当の支給額は、役職名ではなく、人事制度上のジョブグレード(等級G1からG7)に応じて別表に定める額を支給する。同一のジョブグレードに複数の役職名が対応する場合であっても、支給額はジョブグレードに基づき統一する。」
一言解説: 大企業で事業部制やカンパニー制をとる場合、役職名の呼称が組織ごとに異なることが多く、役職名連動では不公平感が生じやすい。ジョブグレード連動に切り替えることで組織横断的な公平性を確保しやすくなる。
B節: 多階層組織向け
管理職の階層が細分化されている組織では、管理監督者に該当する層と該当しない層を明確に線引きする書き換えが重要になる。
修正条文例(第4条第1項に追加する号): 「(4) 部下の労務管理(勤怠管理、休暇承認、労働時間管理)について、実質的な決裁権限を有し、単なる取次ぎにとどまらないこと」
一言解説: 多階層組織では、係長・主任クラスにまで「管理職」の呼称が及び、名ばかり管理職リスクが生じやすい。労務管理上の実質的決裁権限の有無を要件に加えることで、形式的な役職名だけで管理監督者性を判断しない運用を条文上明確化できる。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説(解説)
役職手当規程の導入が適する場面は、組織階層が複数あり役職ごとの手当額にばらつきがある企業、あるいは管理職層の労働時間管理のあり方を見直したい企業である。他方、役職が実質的に存在しない小規模企業や、全労働者がフラットな職務等級のみで処遇されている企業では、役職手当という概念自体になじまず、職務手当規程など別の枠組みで設計する方が実態に即する場合がある。
本規程の中心的な法的論点は、労働基準法第41条第2号が定める管理監督者に該当するかどうかの判断である。同号に該当する者は、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外される結果、時間外労働及び休日労働に対する割増賃金の支払義務が生じない。しかし、行政解釈及び裁判実務上、管理監督者に該当するかどうかは役職名や辞令の有無によって形式的に決まるものではなく、経営者と一体的な立場で重要な職務・権限を有しているか、出退勤について自己の裁量があるか、その地位にふさわしい処遇を受けているかといった実態に即して判断される。役職名だけを根拠に管理監督者として取り扱い、実際には時間管理を厳格に受け、経営上の決定権限もほとんど持たない労働者に割増賃金を支払わない、いわゆる「名ばかり管理職」の運用は、後に未払い割増賃金の請求を招く典型的なリスクである。第4条は、この判断要素を条文上に落とし込み、役職手当の支給と管理監督者該当性の判断を安易に一致させない設計としている。
もう一つの重要な論点は、管理監督者であっても労働基準法第37条第4項に基づく深夜割増賃金の支払義務は適用除外とならない点である。同法第41条は労働時間、休憩、休日の規定の適用を除外するにとどまり、深夜業に関する規定(同法第37条第4項)の適用は除外していない。管理監督者に該当する役職者であっても、深夜時間帯に勤務させた場合は深夜割増賃金の支払いが必要であり、この点を見落として一切の割増賃金を支払わない運用としている企業は少なくない。第5条第2項はこの点を明記した条項である。
実務上よくある失敗としては、第一に、課長職等の中間管理職に対して役職名のみを根拠に管理監督者として取り扱い、実態としての決裁権限や時間的裁量が乏しいために後日未払い残業代を請求される例である。第4条・第2部B節のように、役職名と管理監督者性の判断を分離し、実態要件を具体的に列挙することが対策となる。第二に、管理監督者に対しても深夜割増賃金の支払いが必要であることを見落とし、深夜勤務分も含めて一切の割増賃金を支払わない例である。第5条第2項のように明文で確認しておくことが望ましい。第三に、役職の解任や降格に伴う手当の改廃時期が曖昧で、賃金計算上の混乱や労働者との認識齟齬を招く例である。第7条のように、支給終了の基準日を明確にしておく必要がある。
管理監督者該当性の判断は職務の実態に強く依存し、規程の文言のみで適法性が確定するものではないため、役職手当規程の設計及び管理監督者の範囲確定にあたっては弁護士等の専門家に個別事案として確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト(チェックリスト)
- [ ] 役職区分ごとの支給額が組織の実態(職責・権限の大きさ)と対応しているか
- [ ] 管理監督者として取り扱う役職の範囲を、役職名だけでなく実態要件で定義したか
- [ ] 管理監督者性の判断要素(経営への関与、時間的裁量、処遇の相当性)を条文に反映したか
- [ ] 労働基準法第41条第2号の適用除外の範囲(労働時間・休憩・休日)を正確に理解した記載になっているか
- [ ] 労働基準法第37条第4項に基づき、管理監督者にも深夜割増賃金を支給する条項を設けたか
- [ ] 管理監督者に該当しない役職者への割増賃金支給ルールを別途定めたか
- [ ] 役職の解任・降格・異動時の手当改廃の基準日を明確にしたか
- [ ] 休職・休業期間中の役職手当の取扱いを明記したか
- [ ] 兼務・代行時の重複支給の可否について規定したか
- [ ] 管理監督者に対する労働時間状況の把握・健康確保措置について労働安全衛生法との関係を確認したか
- [ ] 役職者の職務実態を定期的に検証する仕組みを設けたか