要件定義を準委任として先行契約する場面で使用。民法第656条・第648条の2と経済産業省モデル契約の多段階契約の考え方に沿って成果物と役割を規定。

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要件定義フェーズ契約書

第1部: 書式本文

【ユーザー商号】(以下「甲」という。)と【ベンダー商号】(以下「乙」という。)とは、甲が計画するシステム開発プロジェクトのうち、要件定義工程を乙に委託することに関し、次のとおり要件定義フェーズ契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(目的) 本契約は、甲乙間で予定される多段階のシステム開発契約のうち、要件定義工程(以下「本工程」という。)に関する甲乙間の権利義務関係を定めることを目的とする。

第2条(契約の性質) 1. 本契約は、民法第656条において準用される委任の規定に服する準委任契約とし、乙は善良な管理者の注意をもって本工程に係る業務(以下「本業務」という。)を遂行することを約するものであって、特定の結果の完成を約するものではない。 2. 前項にかかわらず、甲及び乙は、本業務の遂行の結果として第3条に定める要件定義書を作成することを目標とする。ただし、要件定義書の内容が甲の期待する水準に至らなかったことをもって直ちに乙の債務不履行とはならない。

第3条(業務内容及び成果物) 1. 乙は、甲の業務内容及び現行システムの調査、甲へのヒアリングその他必要な作業を行い、システムに要求される機能要件及び非機能要件を整理した要件定義書(以下「本成果物」という。)を作成し、甲に提出する。 2. 本成果物は、後続する設計・開発工程における仕様の基礎となる文書であって、それ自体は完成したシステムその他の請負契約における「仕事の目的物」ではなく、準委任契約に基づく役務提供の記録として位置付けられる。

第4条(履行期間) 本業務の履行期間は、【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】から【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】までとする。

第5条(甲の協力義務) 1. 甲は、乙が本業務を遂行するために必要な資料の提供、質問への回答、社内関係者との打合せの設定その他の協力を行うものとする。 2. 甲が正当な理由なく前項の協力を行わず、又はその履行が遅延したことにより本工程の遂行に支障が生じた場合、乙は甲に対しその旨を通知し、必要に応じて履行期間の延長又は追加費用の請求を求めることができる。 3. 甲の協力義務の不履行に起因して本業務の遂行が不能又は著しく困難となった場合、乙は自己の債務不履行責任を免れるものとする。

第6条(対価及び支払方法) 1. 本業務の対価は、金【     】円(消費税別)とする。 2. 甲は、乙に対し、本契約締結後【〇】日以内に着手金として対価の【 】%を、本成果物の提出完了後【〇】日以内に残額を、乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。

第7条(本工程の独立性及び後続工程との関係) 1. 本契約は、後続する設計、開発、テスト等の工程(以下「後続工程」という。)に関する契約とは別個独立の契約とし、本契約の締結及び履行が後続工程に関する契約の締結を甲又は乙に義務付けるものではない。 2. 甲及び乙は、本成果物の内容を踏まえ、後続工程の契約類型(請負又は準委任)、対価及び納期について別途協議し、合意の上で個別に契約を締結する。 3. 本工程の終了時点で甲が後続工程の発注を行わないことを決定した場合であっても、乙は既に履行した本業務に相当する対価の支払を甲に請求できるものとし、甲はこれを拒むことができない。

第8条(要件定義未了時の取扱い) 1. 甲の協力不足その他甲の責めに帰すべき事由により、履行期間内に本成果物の内容が確定しないときは、甲及び乙は協議の上、履行期間の延長又は本契約の一部変更について合意するものとする。 2. 要件定義が未了のまま後続工程に関する契約が締結された場合、後続工程における仕様変更及びこれに伴う追加費用の発生リスクは、甲乙協議の上、後続工程に関する契約において別途取り決めるものとする。

第9条(著作権の帰属) 本成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、対価の完済を条件として乙から甲に譲渡される。ただし、乙が本契約締結前から保有する分析手法、フレームワーク又はひな形については乙に留保される。

第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方の技術上又は営業上の情報を、相手方の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。本条の義務は本契約終了後も【3】年間存続する。

第11条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し相当期間を定めた催告後もその違反が是正されないとき、又は民法第651条に基づき本契約を将来に向かって解除することができる。この場合、既履行部分に相当する対価の精算については第7条3項の趣旨に従う。

第12条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。

【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】

(甲) 住所:【     】   商号又は名称:【     】   代表者:【     】  印

(乙) 住所:【     】   商号又は名称:【     】   代表者:【     】  印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. ベンダー向け書き換え

A-1. 要求が流動的な新規プロジェクト

第5条2項修正例:「甲の協力遅延により履行期間が【〇】営業日以上超過した場合、乙は超過期間に応じた追加費用(1日あたり金【 】円)を甲に請求できる。」 解説: 要件定義は発注者の協力なしには進められない工程である。協力義務違反の効果を金銭的に具体化することで、実務上の抑止力を持たせる。

A-2. 大手企業を相手とする組織的プロジェクト

第7条3項の追加例:「甲が後続工程の発注を行わない場合であっても、乙は本成果物に関する知見を他の顧客の類似案件に一般的知識として活用することを妨げられない。」 解説: 要件定義止まりで終了する案件は一定数存在するため、ベンダー側が蓄積した業務知見(顧客固有の情報を除く)を他案件に活用できることを明記し、事業継続性を確保する。

B. ユーザー向け書き換え

B-1. 要求が流動的な新規プロジェクト

第3条2項の追加例:「乙は、本成果物の作成にあたり、甲の事業内容及び業務フローの理解に基づき、甲が明示的に要求していない事項についても専門的見地から必要な提案を行うものとする。」 解説: 発注者側は要件を過不足なく言語化できないことが多く、ベンダーの専門的知見による能動的な提案を契約上の努力義務として明記することで、要件定義の質を高める。

B-2. 大手企業を相手とする組織的プロジェクト

第8条1項修正例:「甲の責めに帰すべき事由がある場合であっても、履行期間の延長は【〇】営業日を上限とし、これを超える遅延について乙は追加費用を請求できない。」 解説: 発注者側が大規模な社内調整を要するプロジェクトでは、協力遅延を理由とする無制限の費用増加を防ぐため、延長・追加費用の発生に上限を設けることが望ましい。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、システム開発プロジェクトの初期段階において、要件定義工程のみを切り出して先行的に契約する場合に用いる。要件定義から開発までを一括して請負契約とする場合には適さず、その場合はソフトウェア開発基本契約書及び個別契約書を用いるべきである。また、要件定義の内容が既に確定しており実質的に設計工程に近い場合は、準委任ではなく請負契約としての構成が適する場合がある点に留意する。

根拠法令 準委任契約の性質に関する民法第656条(委任の規定の準用)及び第648条の2(成果完成型の委任における報酬)、契約の任意解除に関する民法第651条を主な根拠とする。あわせて、経済産業省の情報システム・モデル取引・契約書が示す多段階契約の考え方(工程ごとに契約を分割し、各契約の独立性を確保する設計)を踏まえている。

実務でよくある失敗と対策 第一に、準委任であるにもかかわらず要件定義書の完成を停止条件として対価を支払う契約にしてしまい、実質的に請負化してしまう失敗がある。第6条のように履行期間の経過に応じた支払方法とすることで準委任の性質を維持する。第二に、発注者の協力義務を定めず、要件定義が進まない原因がベンダーの怠慢か発注者の非協力かをめぐり紛争化する失敗がある。第5条のように協力義務の内容と不履行時の効果を明記する。第三に、要件定義フェーズの契約が後続工程の契約締結を法的に義務付けるものと誤解され、後続工程で条件面の交渉力を失う失敗がある。第7条のように両契約の独立性を明記する。これらは一般的な留意点の整理であり、個別のプロジェクト特性に応じた判断は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 準委任契約であることを本文中に明記したか
  • [ ] 要件定義書(本成果物)の位置づけが「役務提供の記録」であることを明確にしたか
  • [ ] 発注者の協力義務の内容(資料提供、打合せ設定等)を具体的に記載したか
  • [ ] 協力義務違反時の効果(履行期間延長・追加費用請求)を定めたか
  • [ ] 履行期間及び対価の支払時期(着手金・残額の割合)を明記したか
  • [ ] 本契約と後続工程に関する契約が別個独立であることを明記したか
  • [ ] 要件定義が未了のまま後続工程に移行する場合のリスク分担を定めたか
  • [ ] 著作権の帰属時期及びベンダーの既存ノウハウの留保範囲を確認したか
  • [ ] 秘密保持義務の存続期間が自社の情報管理方針と整合しているか
  • [ ] 民法第651条に基づく任意解除の取扱いを確認したか