元請運送事業者が他の事業者に運送を下請けさせる傭車取引の書式。貨物自動車運送事業法と下請法を踏まえ、運賃・附帯業務料・事故責任を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
傭車契約書(下請運送)
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。元請運送事業者)と〇〇〇〇(以下「乙」という。下請運送事業者)とは、甲が荷主から受注した運送業務の全部又は一部を乙に委託する取引(以下「傭車取引」という。)について、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(基本合意) 甲は、甲が荷主から個別に受注する運送業務を、注文書及び注文請書の交付その他甲乙合意の方法により、都度乙に発注することができる。乙はこれを受託することができる。
第2条(乙の事業許可) 乙は、貨物自動車運送事業法第3条に基づく一般貨物自動車運送事業の許可又は同法上の貨物軽自動車運送事業の届出その他業務の遂行に必要な許可・届出を保有し、有効に維持するものとする。
第3条(個別契約の成立) 個別の運送業務は、甲が発注内容(積地、卸地、貨物の種類・数量、運賃、附帯業務の有無等)を明示した注文書を交付し、乙が承諾することにより成立する。乙は発注内容に疑義がある場合、速やかに甲に確認するものとする。
第4条(運賃) 運賃は個別契約ごとに定めるものとし、甲は正当な理由なく発注後に運賃を減額してはならない。附帯業務(荷役、待機、横持ち等)が生じた場合、乙は甲に対し別途料金を請求できる。
第5条(支払条件) 甲は、乙からの請求書受領後〇日以内に、乙が指定する口座に運賃及び料金を支払う。甲は下請代金支払遅延等防止法の趣旨を踏まえ、正当な理由のない支払遅延又は代金の減額を行ってはならない。
第6条(再委託の制限) 乙は、甲の事前の書面による承諾なく、傭車取引に係る運送業務をさらに第三者へ再委託してはならない。
第7条(車両及び運行管理) 乙は、自己が使用する事業用自動車について適切な点検整備及び運行管理を行い、運転者に対する法令遵守及び安全運転の指導を行う。
第8条(事故発生時の対応) 運送中に交通事故、貨物の滅失・毀損その他の事故が発生した場合、乙は直ちに甲に報告し、甲の指示に従い荷主への連絡その他必要な対応を行う。
第9条(損害賠償責任) 貨物の滅失、毀損又は延着について乙の責めに帰すべき事由がある場合、乙は標準貨物自動車運送約款に定める責任限度額を基準として甲に対し損害を賠償する。甲が荷主に対して先に賠償した場合、甲は乙に対し求償することができる。
第10条(保険) 乙は、貨物賠償責任保険及び自動車保険に加入し、その証券の写しを甲の求めに応じて提示する。
第11条(下請法上の書面交付) 甲は、下請代金支払遅延等防止法第3条に定める給付の内容、代金の額、支払期日等を記載した書面を、個別契約ごとに乙に交付するよう努める。
第12条(禁止事項) 甲は、乙に対し、正当な理由のない返品、買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請その他下請代金支払遅延等防止法第4条に定める行為に該当し得る行為を行ってはならない。
第13条(契約期間及び解除) 本契約の有効期間は1年間とし、期間満了の1か月前までに書面による解約の申入れがない限り、同一条件でさらに1年間更新するものとする。
第14条(協議) 本契約に定めのない事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 元請運送事業者側の修正
A-1. 品質・遅延に関する是正措置請求権の追加
修正後:「乙の運行に起因して荷主からクレームが生じた場合、甲は乙に対し原因究明及び再発防止策の報告を求めることができ、乙はこれに誠実に対応する。」 一言解説: 傭車先の運行品質は元請の荷主対応に直結するため、クレーム発生時の報告義務を明文化して品質管理体制を確保する修正である。
A-2. 繁忙期における優先配車義務
修正後:「乙は、甲があらかじめ通知した繁忙期間について、可能な範囲で甲の発注を優先的に受託するよう努める。」 一言解説: 荷主からの受注が集中する時期に傭車先を確保できないと業務が滞るため、努力義務の形で優先配車を求める修正である。
B. 下請運送事業者側の修正
B-1. 運賃減額の禁止を明確化する修正
修正後:「甲は、乙の責めに帰すべき事由がない限り、注文書に記載した運賃を発注後に減額してはならない。減額を行った場合、乙は当初運賃との差額を甲に請求できる。」 一言解説: 下請法上の代金減額禁止は行政規制であり私法上の請求権を直接基礎付けるとは限らないため、契約上の差額請求権として明記しておくことが実務上有用である。
B-2. 附帯業務料及び待機時間料の明確化
修正後:「乙が甲の指示により積込み又は取卸しの順番待ちのため60分を超えて待機した場合、甲は乙に対し別紙料金表に基づく待機時間料を支払う。」 一言解説: 傭車取引では附帯業務や待機時間の扱いをめぐる認識の齟齬が紛争の火種になりやすく、料金表を添付する形で明確化する修正が有効である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、元請運送事業者が荷主から受注した運送業務の全部又は一部を、他の運送事業者に反復継続して発注する傭車取引を想定している。単発かつスポットの取引で継続的な基本契約を要しない場合は、第9部で示す標準約款に基づく運送引受書のような簡易な書式を用いる方が実務に適合する場合がある。また、乙が実質的に甲の指揮命令下で労務を提供するにすぎない実態がある場合、運送委託契約の形式をとっていても労働者供給や労働者派遣に該当するリスクがあるため、本書式をそのまま用いるべきではない。
根拠法令
貨物自動車運送事業法は、一般貨物自動車運送事業の許可(同法第3条)及び運送約款に関する規律を定めており、乙が適法な許可又は届出を有することの確認は取引の前提となる。下請代金支払遅延等防止法は、運送の委託を含む役務提供委託について、書面の交付(同法第3条)並びに代金の減額、支払遅延及び買いたたき等の禁止(同法第4条)を定めており、資本金規模等の要件を満たす取引には適用され得る。貨物の損害に関する責任分担は標準貨物自動車運送約款及び商法の運送人の責任に関する規定が参考となる。
実務でよくある失敗と対策
第一に、口頭発注のみで注文書を交付せず、運賃や附帯業務料の合意内容が後日争いになる例がある。個別契約ごとに書面を交付する運用を徹底することが対策となる。第二に、荷主からの運賃減額を理由に元請が下請への支払を一方的に減額し、下請法上の問題が生じる例がある。荷主との交渉と下請への支払は別個の問題であることを社内で周知する必要がある。第三に、傭車先の許可・届出の有効性を確認せずに取引を継続し、無許可事業者への発注が発覚する例がある。定期的な許可証の更新確認を運用に組み込むことが望ましい。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 乙の運送事業許可又は届出の有効性を確認したか
- [ ] 個別契約の発注方法(注文書・注文請書)を定めたか
- [ ] 運賃の減額禁止及び附帯業務料の取扱いを明記したか
- [ ] 支払期日を具体的に定め下請法の趣旨に反していないか確認したか
- [ ] 再委託の可否及び承諾手続を定めたか
- [ ] 事故発生時の報告・対応フローを定めたか
- [ ] 損害賠償の責任限度額の基準を明記したか
- [ ] 保険加入の有無及び証券提示義務を確認したか
- [ ] 偽装請負・労働者供給に該当しない業務実態か確認したか
- [ ] 契約期間及び更新条件を確認したか