納入業者が顧客構内に在庫を預け使用分を売上計上するVMI契約書。民法第657条の寄託を基礎に、所有権移転時期と棚卸差異の負担を取り決めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
預託在庫(VMI)契約書
第1部: 書式本文
預託在庫(VMI)契約書
【納入業者名】(以下「甲」という。)と【使用者名】(以下「乙」という。)は、甲が所有する在庫を乙の構内に預託し、乙が使用した数量に応じて甲が売上を計上するVendor Managed Inventory(以下「VMI」という。)取引に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、甲が乙の指定する構内倉庫(以下「預託場所」という。)に商品(以下「預託在庫」という。)を預託し、乙が必要の都度これを使用する取引方式(VMI)における権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(定義) 一 「預託在庫」とは、甲が乙に預託し、所有権を留保したまま乙の構内に保管される商品をいう。 二 「使用」とは、乙が預託在庫を自己の生産又は販売の用に供するため引き出すことをいう。 三 「棚卸差異」とは、帳簿上の在庫数量と実地棚卸により確認された数量との差をいう。
第3条(寄託の性質) 甲による預託在庫の預託は、民法第657条に定める寄託契約の性質を有するものとし、乙は受寄者として、民法第400条に定める善良な管理者の注意をもって預託在庫を保管する。
第4条(預託在庫の納入) 甲は、乙が提示する需要予測に基づき、乙の指定する数量及び時期に従い預託在庫を預託場所に納入する。
第5条(所有権の移転時期) 1. 預託在庫の所有権は、乙が預託場所から預託在庫を引き出して使用した時点で、甲から乙に移転する。 2. 乙が使用するまでの間、預託在庫の所有権は甲に留保され、乙は預託在庫を自己又は第三者の債権の担保に供し、又は使用目的以外で処分してはならない。
第6条(使用数量の報告及び代金の精算) 1. 乙は、預託在庫の使用数量を毎月末日締めで集計し、翌月【5】営業日以内に甲に報告する。 2. 甲は、前項の報告に基づく使用数量に、あらかじめ合意した単価を乗じた金額を乙に請求し、乙は請求書受領後【30】日以内に支払う。
第7条(棚卸及び棚卸差異の負担) 1. 甲及び乙は、【3】か月に1回、預託在庫の実地棚卸を共同で実施する。 2. 実地棚卸の結果生じた棚卸差異のうち、乙の保管上の過失に起因することが確認されたものは乙が、通常の保管過程で生じうる範囲内の自然減耗及び原因不明の差異は甲乙協議のうえで負担割合を定める。
第8条(保険) 乙は、預託場所における火災、盗難その他の事故により預託在庫が滅失又は毀損する事態に備え、適切な保険を付保する。
第9条(危険負担) 預託場所における預託在庫の滅失又は毀損については、乙の善管注意義務違反に起因する場合を除き、所有者である甲がその危険を負担する。
第10条(最低保管期間及び返還請求) 1. 甲は、預託在庫が預託場所に納入された日から【6】か月を経過しても乙による使用がない場合、乙に対し当該在庫の返還又は買取りを求めることができる。 2. 乙は、正当な理由なく甲からの返還請求を拒むことができない。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方の需要予測、生産計画その他の営業上の秘密を、相手方の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。
第12条(契約期間) 本契約の有効期間は契約締結日から1年間とし、期間満了の2か月前までに書面による別段の意思表示がない限り、同一条件で1年間自動更新する。
第13条(契約終了時の在庫引揚げ) 本契約が終了した場合、甲は速やかに預託場所から未使用の預託在庫を引き揚げるものとし、乙はこれに協力する。引揚げに要する費用は甲の負担とする。
第14条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関して紛争が生じた場合、【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【契約締結日】
甲(納入業者・在庫所有者) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(使用者・構内保管者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 納入業者(在庫所有者)向け
乙の生産計画変更により長期間使用されない預託在庫が滞留するリスクを軽減したい。第10条を次のように改める。 before:「甲は、預託在庫が預託場所に納入された日から【6】か月を経過しても乙による使用がない場合、乙に対し当該在庫の返還又は買取りを求めることができる。」 after:「甲は、預託在庫が預託場所に納入された日から【3】か月を経過しても乙による使用がない場合、乙に対し当該在庫の買取りを求めることができるものとし、乙は正当な理由がない限り、甲の指定する単価により当該在庫を買い取る。」 滞留在庫の長期化は甲の資金繰りを圧迫するため、買取義務化により早期に金銭債権化することが望ましい。
B節 使用者(構内保管者)向け
構内保管者としては、実地棚卸の結果生じる原因不明の差異まで一律に負担させられることは避けたい。第7条を次のように改める。 before:「通常の保管過程で生じうる範囲内の自然減耗及び原因不明の差異は甲乙協議のうえで負担割合を定める。」 after:「通常の保管過程で生じうる範囲内の自然減耗及び原因不明の差異のうち、預託在庫の帳簿価額に対し【0.5】%以内の範囲は甲が負担し、これを超える部分についてのみ甲乙協議のうえで負担割合を定める。」 負担基準をあらかじめ数値化しておくことで、棚卸のたびに交渉が発生する事態を避けられる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、部品や資材の納入業者が顧客の工場・倉庫等の構内に在庫を預託し、顧客が実際に使用した分だけ発注・精算するVMI取引において使用することを想定している。所有権留保や使用時精算の仕組みを伴わない通常の売買契約(納品時点で所有権及び危険が移転する取引)には前提が異なるため、そのまま流用すると条項と実態が食い違う。
寄託契約の基本規定である民法第657条、受寄者の注意義務を定める同法第400条(有償寄託)及び第659条(無償寄託における自己の財産に対するのと同一の注意)、動産の物権変動の対抗要件を定める同法第178条が本書式の中核をなす。商人間取引では商法上の留置権(商法第521条)の成否にも留意が必要である。
VMI取引の現場で典型的に生じるのは、所有権移転時期を契約書に明記しないまま乙が倒産し、預託在庫が乙の一般財産に組み込まれて甲が取戻しできなくなる例である。第5条のように使用時点での所有権移転を明記し、預託場所内で甲乙の在庫を区分保管する運用を徹底することが最も基本的な対策となる。次に、棚卸差異の負担基準を定めずに差異発生のたびに甲乙間で押し付け合いになる例もあり、第7条のように過失起因分と自然減耗分を区別し負担割合を数値化しておくべきである。さらに、乙が長期間使用しない預託在庫を放置し甲の資金繰りを圧迫する例もあるため、第10条のように最低保管期間経過後の返還・買取請求権を明記することが有効である。
所有権留保の第三者対抗要件の具備方法や棚卸差異の負担割合の妥当性は取引実態によって異なる。個別事案は専門家に確認したうえで、区分保管の運用及び契約条項を詰めることを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 預託在庫の所有権移転時期(使用時)を明確に定めているか
- [ ] 預託場所において甲乙の在庫を区分保管する運用を定めているか
- [ ] 使用数量の報告時期及び代金精算のサイトを明記しているか
- [ ] 実地棚卸の頻度及び実施方法(共同実施か)を定めているか
- [ ] 棚卸差異の負担基準(過失起因分・自然減耗分)を数値化して定めているか
- [ ] 預託在庫の保険付保義務及び付保範囲を明記しているか
- [ ] 危険負担の帰属(所有者たる甲が負担する原則)を明確にしているか
- [ ] 最低保管期間経過後の返還請求・買取請求権を定めているか
- [ ] 乙が預託在庫を担保提供・目的外処分することを禁止しているか
- [ ] 契約終了時の在庫引揚げ費用の負担者を明記しているか
- [ ] 乙の倒産時における取戻権の実効性(区分保管の証跡)を検討したか
- [ ] 管轄裁判所の指定が実務上適切な場所になっているか