従前に作成した遺言の全部または一部を撤回する書面です。民法第1022条に基づく方式、日付の明示、新旧遺言の関係を整理します。

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遺言撤回書

第1部: 書式本文

本書式は、遺言者が従前に作成した遺言の全部又は一部を撤回する意思を明示する書面である。民法第1022条は、遺言者はいつでも遺言の方式に従って遺言の全部又は一部を撤回することができると定めており、撤回書自体も自筆証書遺言や公正証書遺言等、遺言としての方式(民法第968条、第969条等)を満たす必要がある。以下は自筆証書の方式による撤回書の条項例である。

遺言撤回書

遺言者【氏名】(生年月日【 】、住所【 】)は、次のとおり従前の遺言を撤回する。

第1条(撤回の対象) 遺言者が【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】付けで作成した自筆証書遺言(以下「原遺言」という。)の全部を撤回する。

第2条(撤回の理由) 遺言者は、原遺言作成後に財産状況及び家族関係に変化が生じたため、原遺言の内容を維持することが適切でないと判断し、本撤回書を作成する。

第3条(一部撤回の場合の特定) 原遺言のうち、第【 】条(【条項の要旨】)のみを撤回し、その余の条項は効力を維持する。(一部撤回の場合にのみ記載する。)

第4条(新たな遺言の要否) 遺言者は、原遺言の全部を撤回した後の財産の承継については、別途新たな遺言を作成する予定である。(新たな遺言を作成しない場合は本条を削除し、その旨を第5条に記載する。)

第5条(新旧遺言の関係の明示) 遺言者は、本撤回書の作成後に別途遺言を作成した場合、当該遺言のうち本撤回書の内容と抵触する部分については、後に作成した遺言を優先させる意思である。

第6条(遺言書の破棄) 遺言者は、原遺言の原本を本撤回書作成と同時に破棄する。(自筆証書遺言の原本を遺言者自身が保管している場合)

第7条(公正証書遺言を撤回する場合の付記) 原遺言が公正証書遺言である場合、遺言者は当該公正証書の正本及び謄本を保有しているときはこれを破棄するが、原本は公証役場に保管されており本撤回書のみでは原本自体は消滅しない旨を了解している。

第8条(法務局保管制度利用時の付記) 原遺言が法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用しているときは、遺言者は法務局に対し別途保管の申請の撤回及び遺言書の返還を請求する手続を行う。

第9条(証人の立会いに関する付記) 本撤回書の作成にあたり証人の立会いを求める場合、証人は【氏名】(住所【 】)及び【氏名】(住所【 】)とする。(自筆証書遺言の方式では証人の立会いは要件ではないが、後日の紛争予防のため立会いを求める場合に記載する。)

第10条(撤回の意思の再確認) 遺言者は、本撤回書の作成が自らの自由な意思に基づくものであり、第三者からの強制又は不当な影響によるものではないことを確認する。

以上のとおり、原遺言を撤回する。

【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】

住所【     】 遺言者 氏名【     】  印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 遺言者の立場

A-1. 複数の遺言が既に存在し関係を整理したい場面

修正例:「遺言者が過去に作成した【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】付け遺言及び【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】付け遺言のうち、後者を撤回し、前者の効力を維持する。」 解説: 民法第1023条第1項により前後の遺言が抵触する部分は後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされるが、撤回対象の遺言を明示しないと相続人がいずれの内容が有効か判断できず紛争になりやすいため、対象を特定して記載する。

A-2. 遺言書原本を破棄することで撤回の意思を示したい場面

修正例:「遺言者は、原遺言の自筆証書遺言書の原本を遺言者の目前で破棄し、破棄の事実をもって撤回の意思を明確にする。」 解説: 民法第1024条前段は、遺言者が故意に遺言書を破棄したときはその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすと定めるが、破棄の事実を客観的に示す記録(写真・立会人の署名等)を残しておくと後日の紛争を避けやすい。

B. 相続人の立場

B-1. 遺言者の死後に複数の遺言書が発見された場面

確認例:「発見された【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】付け遺言と【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】付け遺言の内容を比較し、後の日付の遺言が前の遺言と抵触する範囲を確認する。」 解説: 民法第1023条第1項に基づき、日付の先後関係が撤回の有無を左右するため、相続人は各遺言書の作成日付を必ず確認する必要がある。

B-2. 撤回書の方式に疑義がある場面

確認例:「撤回書が自筆証書遺言の方式(民法第968条第1項)を満たしているか(全文自書・日付・氏名・押印の有無)を確認する。」 解説: 撤回書自体が方式不備で無効となった場合、原遺言の効力が復活するかは事案により判断が分かれ得るため、方式の充足を慎重に確認する必要がある。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、遺言者が既に作成した遺言の内容を積極的に否定し、撤回した事実を明確な書面として残したい場合に用いる。単に新しい遺言を作成すれば内容が抵触する限度で前の遺言は撤回されたとみなされる(民法第1023条第1項)ため、必ずしも独立した撤回書を作成しなくてもよい場合もあるが、撤回の意思をより明確に残したい場合や、新たな遺言をすぐには作成しない場合に本書式が有用である。認知症等により遺言能力に疑義が生じている状態での作成には用いるべきでなく、その場合は医師の診断等により意思能力を確認した上で慎重に手続を進める必要がある。

根拠法令の解説 民法第1022条は遺言者による撤回の自由と、撤回が遺言の方式に従って行われるべきことを定める。民法第1023条第1項は前の遺言と後の遺言とが抵触するときは、その抵触する部分について後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと定め、同条第2項はこの規定を遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為との抵触にも準用する。民法第1024条前段は遺言者が故意に遺言書を破棄したときはその破棄した部分について、後段は遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときは当該遺贈について、それぞれ遺言を撤回したものとみなすと定める。撤回書自体も遺言の一種であるため、自筆証書遺言であれば民法第968条、公正証書遺言であれば同法第969条の方式を満たす必要がある。

実務でよくある失敗 第一に、口頭やメモで「前の遺言はなかったことにする」と伝えただけで満足し、法定の方式を満たす書面を残さず、撤回の効力が認められない失敗がある。撤回の意思は必ず遺言の方式に従った書面で残す。第二に、公正証書遺言を撤回したいのに正本を破棄しただけで満足し、公証役場に保管された原本が残存していることを見落とす失敗がある。公正証書遺言の撤回には別途撤回の遺言を作成する必要がある旨を明記する。第三に、一部撤回のつもりが対象条項の特定が曖昧で、相続人間でどの範囲が撤回されたか解釈が分かれる失敗がある。撤回対象の条項番号及び要旨を具体的に記載することが望ましい。第四に、撤回書の作成後に遺言者の判断能力の低下が疑われる状況で作成し、撤回の効力そのものが争われる失敗もある。作成時の状況(日時、場所、立会人の有無等)を記録に残しておくと、後日の紛争予防に資する。個別の事案については専門家(弁護士・司法書士等)に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 撤回の対象となる原遺言の作成日付・方式を特定したか
  • [ ] 全部撤回か一部撤回かを明確に記載したか
  • [ ] 一部撤回の場合、対象条項を条項番号・要旨で具体的に特定したか
  • [ ] 撤回書自体が遺言の方式(自筆証書等)を満たしているか
  • [ ] 原遺言が公正証書遺言である場合、原本が公証役場に保管される点を理解しているか
  • [ ] 原遺言が法務局保管制度を利用している場合、保管申請の撤回手続を確認したか
  • [ ] 新たな遺言を作成する予定の有無を明記したか
  • [ ] 原遺言原本の破棄の要否及び破棄の記録方法を検討したか
  • [ ] 撤回書の日付・氏名の自書及び押印を確認したか
  • [ ] 遺言者の遺言能力(意思能力)に疑義がないことを確認したか