介護付や住宅型の有料老人ホームが入居者と結ぶ施設入所契約書。老人福祉法の届出と前払金の保全措置、入居後九十日以内の契約解除ルールと退去要件を反映させる。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
有料老人ホーム入居契約書
第1部: 書式本文
有料老人ホーム入居契約書
【有料老人ホーム名・設置運営事業者名】(以下「甲」という。)と【入居者氏名】(以下「乙」という。)及び【身元引受人氏名】(以下「丙」という。)は、乙の甲が運営する有料老人ホーム(以下「本ホーム」という。)への入居に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(入居の許諾) 甲は乙に対し本ホームの居室【号室】への入居を許諾し、乙は本ホームが提供する介護、生活支援その他のサービス(以下「本サービス」という。)を利用する。
第2条(入居一時金) 1. 乙は、本契約締結時に、家賃、介護費用等の前払いとしての性質を有する入居一時金【金〇〇〇〇円】を甲に支払う。 2. 入居一時金は、あらかじめ定めた想定居住期間及び償却方法(初期償却の有無を含む。)に従い、期間の経過に応じて償却される。 3. 甲は、老人福祉法第29条第7項の規定に基づき、入居一時金の保全措置として【銀行等による連帯保証委託契約・信託契約・保証保険契約】を締結し、その内容を乙に開示する。
第3条(月額利用料) 乙は、本サービスの対価として、家賃相当額、管理費、食費及び介護費用等から構成される月額利用料を、甲が定める方法により毎月支払う。
第4条(90日以内の契約解除に関する特例) 1. 乙又は丙は、本契約締結の日から起算して90日以内に本契約を解除し、又は乙が死亡したことにより本契約が終了した場合、甲は乙又はその承継人に対し、入居一時金から次の各号に掲げる費用を控除した残額を返還する。 (1) 入居時から解除又は終了までの日数に応じた家賃、管理費及び介護費用相当額 (2) 原状回復に通常要する費用のうち社会通念上相当と認められる額 2. 前項による返還額の算定方法及び控除の対象となる費用の内訳は、別紙「返還金算定明細」に具体的に示すものとし、甲は乙の求めに応じてその根拠を説明する。
第5条(退去要件) 1. 甲は、乙の要介護度が本ホームの提供する本サービスの範囲を超えて重度化した場合、又は医療的処置(常時の医療管理、経管栄養、喀痰吸引等)が本ホームの人員体制で対応できない程度に必要となった場合、乙又は丙と協議のうえ退去を求めることができる。 2. 甲は、前項の協議にあたり、退去を求める具体的理由及び転居先候補に関する情報提供その他の必要な支援を行う。 3. 乙が長期にわたり月額利用料の支払を怠り、相当期間の催告にもかかわらず是正されない場合、甲は本契約を解除し退去を求めることができる。
第6条(身元引受人の役割) 1. 丙は、乙の緊急時における連絡先となるほか、乙の入院、通院その他の身上に関する手続に協力する。 2. 丙が乙の月額利用料の支払債務について連帯して責任を負うか否かは、別紙「身元引受人の責任範囲に関する確認書」に明記するところによるものとし、丙は当該確認書に定める範囲を超えて金銭債務を負担しない。
第7条(居室の変更) 乙の心身の状況の変化その他やむを得ない事情により居室の変更が必要となった場合、甲は乙及び丙と協議のうえ、変更後の居室及び利用料を定める。
第8条(サービス内容の説明及び情報開示) 甲は、契約締結時に重要事項説明書を交付し、提供するサービスの内容、職員体制、利用料金の算定方法及び第2条の保全措置の内容について説明する。
第9条(甲の倒産時等の取扱い) 甲が経営破綻その他の事由により本サービスの提供を継続できなくなった場合、乙は第2条の保全措置に基づき入居一時金の返還を受けることができる範囲で保護されるものとし、甲は、本サービスの継続が困難となる具体的な兆候が生じた場合、速やかに乙及び丙に通知する。
第10条(秘密保持) 甲は、本サービスの提供を通じて知り得た乙及び丙に関する情報を、正当な理由なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第11条(有効期間) 本契約は、締結の日から効力を生じ、乙が退去し、又は死亡するまで存続する。
以上を証するため本契約書3通を作成し、甲乙丙記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】 甲(設置運営事業者)【住所・名称・代表者印】 乙(入居者)【住所・氏名・印】 丙(身元引受人)【住所・氏名・印・乙との続柄】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 施設運営事業者側が有利になる修正例
A-1. 退去要件の判断プロセスの明確化
「第5条第1項の退去要否の判断は、甲の医務室職員又は嘱託医の意見を踏まえて行うものとし、甲は判断に至った経緯を書面で乙及び丙に示す。」 一言解説: 退去要求が恣意的な運用とならないよう、判断プロセスを客観化しておくことで、後日の紛争を予防しやすくなる。
A-2. 前払金償却スケジュールの詳細化
「入居一時金の未償却残額は、契約締結日から起算した経過月数に応じ、別紙償却表のとおり逓減するものとし、90日超経過後の解除の場合は同表記載の残額を返還額の計算基礎とする。」 一言解説: 90日を超えた通常解約の場合の返還額についても、あらかじめ算定根拠を明示しておくことで、退去時の精算をめぐる紛争を避けやすくする。
B. 入居者・身元引受人側が有利になる修正例
B-1. 90日以内解除時の返還額算定の透明化
「甲は、第4条第1項に基づく返還額の算定にあたり、控除する費用ごとの単価及び算定式を明記した明細書を乙又はその承継人に交付し、口頭による概算提示のみで済ませてはならない。」 一言解説: 返還額の計算根拠が不透明なまま合意させられることを防ぐため、明細書の交付を明文で義務付けておく。
B-2. 身元引受人の責任範囲の限定明記
「丙は、乙の月額利用料の支払について連帯保証人とはならず、緊急時の連絡及び身上に関する手続への協力に限り責任を負うものとする。」 一言解説: 身元引受人が緊急連絡のみを想定して署名したにもかかわらず、後日、金銭債務の連帯保証を求められる紛争を避けるため、責任範囲を契約上明確に限定しておく。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、介護付有料老人ホーム又は住宅型有料老人ホームが新規入居者を受け入れる場面で使用する。サービス付き高齢者向け住宅は、有料老人ホームに該当する場合を除き老人福祉法上の入居一時金保全義務や90日ルールの適用関係が異なるため、本書式をそのまま流用せず、契約類型を個別に確認する必要がある。
根拠法令の解説 有料老人ホームの設置者は、老人福祉法第29条に基づき都道府県知事等への届出義務を負い、同条第7項は前払金を受領する場合の保全措置を義務付けている。厚生労働省が示す「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」は、入居後短期間で契約が終了した場合の入居者保護の観点から、入居後90日以内の契約解除について、事業者が実費相当額を除き前払金を返還すべきとする、いわゆる90日ルールの考え方を示しており、実務上多くの契約書がこれに準拠した条項を置いている。
実務でよくある失敗と対策の解説 第一に、前払金を受領しているにもかかわらず、保全措置(銀行等による保証委託契約や信託契約)が未整備、又は保全される金額が前払金全額をカバーしていない例がある。第2条第3項のように、保全措置の具体的な方法を契約書上に明記し、乙に開示する運用が対策となる。第二に、90日以内解除時の返還額の計算方法について、控除する実費の範囲が契約書上あいまいなまま「相当額を控除する」とだけ記載され、退去時の精算で紛争になる例がある。第4条及びB-1のように、算定明細の交付を義務付け、控除項目を具体的に列挙することが望ましい。第三に、身元引受人の責任範囲が、緊急連絡のみを想定するものか、月額利用料の連帯保証まで含むものか契約書上判然とせず、丙との間で紛争になる例がある。第6条及びB-2のように、責任範囲を別紙で明確化し、金銭債務を負う場合は独立した保証条項として明示する必要がある。入居一時金の保全措置の適法性や返還額算定の妥当性については、専門家(弁護士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 入居一時金の保全措置(保証委託・信託・保証保険)を具体的に記載したか
- [ ] 90日以内解除時の返還額算定方法及び控除項目を明細化したか
- [ ] 月額利用料の内訳(家賃相当額・管理費・食費・介護費用)を明記したか
- [ ] 退去要件(要介護度・医療的処置の限界等)を具体的に定めたか
- [ ] 退去判断のプロセス(嘱託医の意見聴取等)を明記したか
- [ ] 身元引受人の責任範囲(連帯保証か緊急連絡のみか)を別紙で明確にしたか
- [ ] 居室変更時の手続と利用料の取扱いを定めたか
- [ ] 甲の経営破綻時における入居者保護の仕組みを説明したか
- [ ] 重要事項説明書の交付及び説明を契約締結前に実施したか
- [ ] 秘密保持義務の範囲を確認したか