発行時に公正価値相当額の払込みを受ける新株予約権の割当契約書。会社法第238条の募集事項と第246条の払込手続を前提に、業績条件の設定方法を整理しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
有償ストックオプション割当契約書
第1部: 書式本文
新株予約権割当契約書(有償ストックオプション)
株式会社【会社名】(以下「甲」という)と【氏名】(以下「乙」という)は、甲が乙に対して有償で新株予約権を発行するにあたり、次のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(新株予約権の発行) 甲は、乙に対し、【 年 月 日】開催の【株主総会・取締役会】決議に基づき会社法第238条及び第240条(又は第239条)の規定により決定された募集事項に従い、下記の内容の新株予約権(以下「本新株予約権」という)【 】個を発行し、乙はこれを引き受ける。
第2条(払込金額) 本新株予約権の払込金額は、本新株予約権1個当たり【 】円とし、乙は【 年 月 日】までに、甲が指定する口座に振り込む方法により払い込むものとする(会社法第246条第1項)。
第3条(払込金額の算定根拠) 前条の払込金額は、【ブラック・ショールズモデル・二項モデル】を用い、甲の株式の評価額、行使価額、想定残存期間、無リスク利子率及びボラティリティを基礎として算定した本新株予約権1個当たりの公正価値(オプション価値)に基づくものとし、その算定根拠は別紙【 】(価値算定書)のとおりとする。
第4条(目的となる株式の種類及び数、行使価額) 本新株予約権の目的である株式の種類及び数は甲の普通株式【 】株(1個当たり【 】株)とし、行使に際して出資される財産の価額は1個当たり【 】円とする。
第5条(行使期間) 本新株予約権を行使できる期間は、【 年 月 日】から【 年 月 日】までとする。
第6条(業績条件) 乙は、次の各号に定める業績条件(以下「本業績条件」という)が達成された場合に限り、当該各号に対応する割合の本新株予約権を行使することができる。 (1) 甲の【対象事業年度】における売上高が【 】円以上に達した場合 行使可能割合【 】パーセント (2) 甲の【対象事業年度】における営業利益が【 】円以上に達した場合 行使可能割合【 】パーセント (3) 【株式上場審査基準を満たした場合その他のマイルストーン】 行使可能割合【 】パーセント
第7条(権利確定(ベスティング)条件) 本新株予約権は、乙が甲又は甲の子会社の役員又は従業員の地位に【 年 月 日】以降も継続して在任・在籍していることを条件として、次のとおり権利が確定(ベスト)するものとする。 (1) 割当日から1年経過時点 【 】パーセント (2) 以降1か月経過ごとに 【 】パーセントずつ
第8条(譲渡制限) 本新株予約権の譲渡については、甲取締役会の承認を要する(会社法第236条第1項第6号)。
第9条(払込金額の返還の不可) 本新株予約権が行使されず、又は消滅した場合であっても、乙が既に払い込んだ払込金額は返還しない。
第10条(退任時の取扱い) 乙が甲又は甲の子会社の役員又は従業員の地位を、本業績条件及び前条の権利確定条件の達成前に、自己都合又は懲戒事由により喪失した場合、当該喪失時点で権利未確定の本新株予約権は行使できないものとし、甲は当該部分を無償で取得することができる。
第11条(組織再編行為時の取扱い) 甲が合併、株式交換、株式移転、事業譲渡その他の組織再編行為を行う場合の本新株予約権の取扱い(承継、買取り、消滅等)は、当該組織再編に係る契約等において別途定める。
第12条(会計上の取扱いに関する確認) 甲及び乙は、本新株予約権の発行が公正価値評価に基づく払込みを前提とするものであり、甲において追加の株式報酬費用の計上を要しないことを想定して本契約を締結することを相互に確認する。ただし、実際の会計処理は甲の監査人の判断による。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 有償発行(発行手続・募集事項の観点)
修正条文例:
第1条(新株予約権の発行) 本新株予約権は、会社法第238条第3項第1号に該当する特に有利な金額での発行には当たらないことを前提として、同条第2項の取締役会決議のみにより募集事項を決定し発行する。
一言解説: 払込金額が公正価値相当額であれば有利発行(会社法第238条第3項)には該当せず取締役会決議のみで足りるが、公正価値の算定に疑義がある場合には株主総会特別決議(同条第2項、第309条第2項第6号)を経る方が安全である。
B節: 公正価値払込(算定・エビデンス保全の観点)
修正条文例:
第3条(払込金額の算定根拠) 甲は、払込金額の算定に用いた前提条件及び計算過程を記録した価値算定書を、本新株予約権の行使期間満了後5年間保存するものとする。当該算定は【外部評価機関名】による評価に基づくものとする。
一言解説: 有利発行該当性が事後に争われた場合に備え、算定根拠資料(前提数値、算定手法、算定主体)を保存しておくことが、税務調査及び株主からの責任追及への備えとして重要である。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本書式は、役職員に限らず社外協力者や監査役など税制適格ストックオプションの対象になりにくい者に対してインセンティブを付与する場合、又は業績条件を柔軟に設計したい場合に、発行時点で公正価値相当額の払込みを受けることで有利発行規制を回避しつつ新株予約権を発行する場面で使用することを想定している。他方、払込金額の算定根拠がない、又は明らかに時価より低い金額で発行しようとする場合には、有利発行に該当し株主総会特別決議を要するため、この書式をそのまま使用すると手続違反のリスクがある。また、税制適格要件(租税特別措置法第29条の2)を満たすことを企図する場合は無償発行が前提となるため、この書式は使用しない。
根拠法令としては、募集事項の決定を定める会社法第238条、募集新株予約権の申込み及び割当てを定める同法第239条・第240条、払込みを定める同法第246条、新株予約権の内容の決定を定める同法第236条を確認する必要がある。
実務でよくある失敗としては、第一に、公正価値の算定を第三者評価によらず社内で簡易に見積もり、後に有利発行と指摘される例がある。対策として、外部専門家による評価書を取得し、算定根拠を書面化して保存することが有効である。第二に、業績条件とベスティング条件を混同して規定し、権利確定の判定時期が不明確になる例がある。対策として、業績条件(会社業績に連動する条件)と勤務条件(在籍期間に連動する条件)を条項上明確に分けて規定することが求められる。第三に、退任時の取扱い(自己都合・会社都合・死亡等の場合分け)を定めず、紛争時に判断が割れる例がある。対策として、退任事由ごとに行使可否及び会社による取得の可否を細分化して規定しておくことが望ましい。
公正価値の算定手法や業績条件の妥当性は個別の資本政策や事業計画によって大きく異なるため、個別事案は専門家に確認の上で契約内容を確定することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 払込金額が公正価値相当額であることの算定根拠資料(価値算定書等)を保有しているか
- [ ] 有利発行(会社法第238条第3項)に該当しないことを確認し、該当する場合は株主総会特別決議を経る手順としたか
- [ ] 払込期日及び払込方法(会社法第246条第1項)を具体的に定めたか
- [ ] 業績条件の判定指標(売上高・利益等)と判定時期を客観的に特定したか
- [ ] ベスティングスケジュールと業績条件の関係(いずれか一方の充足で足りるか双方必要か)を明確にしたか
- [ ] 退任事由ごとの権利未確定分の取扱い(会社による無償取得の可否)を場合分けして規定したか
- [ ] 譲渡制限に関する取締役会承認手続を規定したか(会社法第236条第1項第6号)
- [ ] 会計上の取扱い(株式報酬費用の要否)について監査人と事前に確認したか
- [ ] 組織再編時の新株予約権の承継・買取り・消滅の取扱いを規定したか
- [ ] 払込済金額の不返還条項を明記し、権利喪失時の金銭的リスクを付与対象者に説明したか