単身高齢者の入居時に死亡後の残置物処理と賃貸借の解除を委任する契約書。国土交通省等のモデル契約条項に沿い、民法第653条の委任終了規定に配慮した書式。

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残置物の処理等に関する死後事務委任契約書

第1部: 書式本文

第1条(目的) 本契約は、委任者【氏名】(以下「委任者」という。)が、その死亡後に生じる賃貸借契約(以下「原契約」という。)の解除並びに残置物の搬出・保管・処分等の事務(以下「本件死後事務」という。)を、受任者【居住支援法人名】(以下「受任者」という。)に委任することを目的とする。本契約は、国土交通省及び法務省が公表する「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の考え方に沿って締結する。

第2条(委任事務の範囲) 受任者が委任者から受任する事務は、次の各号のとおりとする。 1. 原契約に基づく賃貸借契約の解除に関する意思表示 2. 居室内に存置された動産(以下「残置物」という。)の搬出、保管及び廃棄又は換価処分 3. 居室の明渡し及び貸主への鍵の返還 4. 前各号に付随する一切の事務

第3条(委任契約の効力と民法第653条との関係) 1. 委任者及び受任者は、委任者の死亡が民法第653条第1号に定める委任の終了事由に該当することを確認した上で、委任者の死亡後も本契約に基づく委任事務が終了しない旨を合意する(民法第653条は任意規定であり、本条の特約により本件死後事務委任契約は委任者死亡後も効力を存続させることができるとする裁判例・実務解説の考え方による。)。 2. 前項の合意にかかわらず、委任者の相続人が民法第651条に基づき本契約を解除した場合は、受任者は速やかに事務の引継ぎを行う。

第4条(残置物の取扱いの基準) 1. 受任者は、残置物のうち、通帳、印鑑、権利証その他明らかに財産的価値を有する物及び遺影・位牌等の祭祀に関する物については、直ちに廃棄せず、相続人若しくは相続財産清算人が判明するまで別途保管する。 2. 前項以外の残置物については、委任者があらかじめ別紙「廃棄同意物件目録」により廃棄に同意した物に限り、受任者が搬出後【14】日を経過してもなお引取りの申出がないときに廃棄することができる。 3. 受任者は、残置物の廃棄又は処分に要した費用を、第6条の予納金及び残置物の換価代金から充当することができる。

第5条(貸主との関係) 受任者は、原契約の貸主に対し、本契約の写しを提示することにより、委任者死亡後の解除及び明渡しに関する事務を行う権限を有することを証明することができる。貸主は、受任者からの解除の意思表示を委任者の相続人全員に対する意思表示と同一の効果を有するものとして取り扱うことに、あらかじめ同意する。

第6条(予納金) 委任者は、本件死後事務の履行に要する費用に充てるため、受任者に対し金【30万】円を予納金として本契約締結時に交付する。予納金は受任者が別口座で管理し、委任者の生前中は取り崩さない。

第7条(相続人への通知) 受任者は、委任者の死亡を知った後、遅滞なく、判明している相続人に対し本契約の存在及び本件死後事務の実施予定を通知する。相続人が不明又は不存在の場合は、家庭裁判所への相続財産清算人選任の申立ての要否について貸主と協議する。

第8条(受任者の注意義務) 受任者は、善良な管理者の注意をもって本件死後事務を処理する(民法第644条)。受任者は、残置物の搬出及び保管に際して写真等により状態を記録し、委任者の死後【1】年間はその記録を保存する。

第9条(復委任) 受任者は、委任者の書面による承諾を得たときに限り、本件死後事務の全部又は一部を第三者に再委任することができる。

第10条(委任者の死亡以外の事由による終了) 受任者が後見開始の審判を受けたとき、又は破産手続開始の決定を受けたときは、本契約は終了する(民法第653条第2号・第3号)。

第11条(費用及び報酬) 受任者は、本件死後事務の履行に要した実費を予納金から控除するほか、別紙報酬基準に定める額を受領することができる。予納金が不足する場合の追加費用の請求先は、委任者の遺産とする。

第12条(秘密保持) 受任者は、本件死後事務の遂行に際して知り得た委任者の個人情報及びプライバシーに関する情報を、正当な理由なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。

第13条(協議事項) 本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき疑義が生じた事項については、委任者(又はその相続人)と受任者が誠実に協議して定める。

第14条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: 貸主向け

A-1 第5条の修正例 「受任者は、原契約の解除に係る意思表示を、委任者の死亡診断書の写し又は死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本の提示と引換えに貸主に対して行うものとし、貸主はこれを確認のうえ解除の効力発生日を明渡し完了日とみなす。」 一言解説: 貸主にとって最大の懸念は解除権限の真正性であるため、死亡の事実確認書類の提示を解除の条件として明記し、貸主が二重に相続人対応を迫られる事態を防ぐ。

A-2 第6条の修正例 「予納金は、原契約の敷金とは別個の金員であり、貸主は敷金の返還債務と予納金の管理義務を混同しないものとする。」 一言解説: 敷金と死後事務予納金は法的性質が異なるため、貸主側の実務担当者が誤って敷金精算に組み込まないよう明文で切り分ける。

B節: 単身高齢入居者向け(委任者向け)

B-1 第4条の修正例 「委任者は、別紙「廃棄同意物件目録」に、生前に処分してよい物と親族に引き継がせたい物を区分して記載し、少なくとも年に1回、内容を見直すものとする。」 一言解説: 入居時点の意思と死亡時点の実際の所持品には差が生じやすいため、定期的な目録更新の仕組みを入れておくことで、受任者が判断に迷う場面を減らせる。

B-2 第7条の修正例 「委任者は、緊急連絡先として親族以外の第三者(民生委員、ケアマネジャー等)を1名以上指定し、受任者はその者にも死亡の事実を確認した場合に連絡することができる。」 一言解説: 単身高齢者は相続人と疎遠なケースが多いため、福祉関係者を情報伝達のルートに加え、事務の初動を早める。

C節: 受任者(居住支援法人)向け

C-1 第8条の修正例 「受任者は、残置物の搬出に際し、原則として第三者の立会人(貸主又はその代理人)を同席させ、搬出物件一覧に相互に署名する。」 一言解説: 居住支援法人が単独で残置物を処分すると、後日相続人から窃取や横領を疑われる紛争リスクがあるため、第三者立会いによって手続の透明性を確保する。

C-2 第11条の修正例 「受任者は、予納金の管理状況について、委任者の生存中は年1回、委任者本人に書面で報告する。」 一言解説: 受任者の善管注意義務の履行を可視化し、予納金の使途不明という苦情を未然に防ぐための定期報告条項である。

第3部: 書き方と法的ポイントの解説

本書式は、単身高齢者が賃貸住宅に入居する際、その死亡後の残置物処理と原状回復・明渡しを円滑に進めるために、あらかじめ委任契約を締結しておく場面で使用する。使用してはならない場面としては、委任者に判断能力の低下がすでに認められる場合(この場合は成年後見制度や任意後見契約の枠組みを検討すべきである)、及び受任者が貸主自身である場合(利益相反のおそれが強く、独立した第三者又は居住支援法人が受任者となることが望ましい)が挙げられる。

法的な根拠としては、民法第653条第1号が委任者の死亡を委任の終了事由と定める一方、この規定は任意規定と解されており、委任者と受任者があらかじめ死亡後も委任の効力を存続させる旨の特約を結ぶことは可能とされている(最高裁判所昭和58年9月20日判決の趣旨等を踏まえた実務解釈)。また、受任者の権限や残置物の処分基準については、国土交通省・法務省が公表する「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が参考になる。相続人が存在する場合には民法第896条の相続財産に関する規律、相続人不存在の場合には民法第951条以下の相続財産清算人の手続との整合にも留意する必要がある。

実務でよくある失敗の一つ目は、受任者の権限の及ぶ範囲を曖昧にしたまま契約を結び、死亡後に相続人が現れて「そのような処分は聞いていない」と紛争化するケースである。対策として、第2条で委任事務の範囲を号立てで具体的に列挙し、第7条で相続人への通知義務を明記することが有効である。二つ目は、残置物のうち財産的価値のある物を誤って廃棄してしまい、相続人から損害賠償を請求されるケースである。第4条のように、財産的価値のある物・祭祀財産・その他の物を区分し、廃棄までの猶予期間を設ける条項が対策となる。三つ目は、予納金が不足した場合の追加費用の負担者が定まっておらず、受任者が事実上の持ち出しを強いられるケースであり、第11条で遺産からの請求を明記しておくことが望ましい。なお、個別の事案については、相続関係や貸主との契約内容により結論が異なり得るため、専門家に確認することを推奨する。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 委任者本人に契約締結時点で十分な判断能力があることを確認したか
  • [ ] 受任者が貸主自身ではなく、独立した第三者又は居住支援法人であるか
  • [ ] 委任事務の範囲(解除・残置物処理・明渡し)が号ごとに具体的に記載されているか
  • [ ] 民法第653条の任意規定性を踏まえ、死亡後も委任の効力が存続する旨の特約があるか
  • [ ] 財産的価値のある残置物・祭祀財産の取扱いを区分して定めているか
  • [ ] 残置物の廃棄までの猶予期間及び保管方法が明記されているか
  • [ ] 予納金の金額、管理方法、不足時の請求先が明記されているか
  • [ ] 相続人への通知義務及び相続人不存在の場合の対応が定められているか
  • [ ] 貸主が受任者の解除権限をあらかじめ承認する条項が設けられているか
  • [ ] 緊急連絡先や福祉関係者との連携方法が定められているか
  • [ ] 別紙「廃棄同意物件目録」など添付書類の様式が整備されているか
  • [ ] 合意管轄裁判所が明記されているか