税理士が法人・個人事業主と結ぶ顧問契約書。税理士法の業務範囲と書面交付義務を踏まえ、記帳・申告代理の範囲、報酬、免責と守秘義務を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
税理士顧問契約書
第1部: 書式本文
【税理士事務所名又は税理士法人名】(以下「甲」という。)と【依頼者商号又は氏名】(以下「乙」という。)とは、乙の税務に関する事務の処理に関し、次のとおり税理士顧問契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、税理士法(以下「法」という。)に基づき税理士である甲が乙から税務代理、税務書類の作成及び税務相談その他の税務に関する事務(以下「本件業務」という。)を受任し、乙がその対価を支払うことに関する基本的な権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(委任事務の範囲) 1. 甲が乙から受任する本件業務は、法第2条第1項に定める税理士業務のうち次の各号に掲げる事項とする。 (1) 法人税、消費税その他の国税及び地方税に関する税務代理(法第2条第1項第1号) (2) 確定申告書その他の税務書類の作成(同項第2号) (3) 税務に関する相談(同項第3号) (4) 【月次記帳代行、給与計算その他の付随業務】 2. 前項各号のうち乙が甲に委託する具体的な範囲及び対象事業年度は、別紙業務委託明細書に定めるとおりとする。
第3条(税務代理権限証書) 甲は、乙の税務代理を行うにあたり、法第30条に定める税務代理権限証書を作成し、これを税務署その他の課税庁に提出する。
第4条(乙の協力義務) 1. 乙は、本件業務の遂行に必要な帳簿書類、証憑その他の資料(以下「関係資料」という。)を、甲が指定する期限までに甲に提出する。 2. 乙は、関係資料の内容が真実かつ正確であることを表明し、その内容に基づき甲が本件業務を行うことを了解する。
第5条(書面添付) 1. 甲及び乙は、法第33条の2に定める書面添付制度を利用するか否かを別紙業務委託明細書において定める。 2. 書面添付を行う場合、甲は乙から提供された関係資料及び甲が行った検討事項に基づき添付書面を作成するものとし、その内容は乙から提供された資料の範囲内で作成された甲の税務上の判断過程を示すものであって、税務調査の省略を保証するものではない。
第6条(脱税相談等の禁止) 甲は、法第36条(脱税相談等の禁止)及び第38条(名義貸しの禁止)の規定を遵守し、乙から不正に租税を免れる行為又は不正に還付を受ける行為に関する相談を受けた場合であっても、これに応じない。
第7条(報酬) 1. 乙は甲に対し、本件業務の対価として、月額顧問料金【〇〇】円(消費税別)を毎月末日までに翌月分を甲の指定する口座に振り込む方法により支払う。 2. 確定申告書の作成、税務調査への立会い、書面添付その他別紙業務委託明細書に定めのない業務については、甲乙協議の上、別途報酬を定める。 3. 振込手数料は乙の負担とする。
第8条(善管注意義務及び免責) 1. 甲は、善良な管理者の注意をもって本件業務を遂行する。 2. 甲の本件業務の遂行が、乙から提供された関係資料の不備、虚偽又は乙による提出遅延に起因して不適切なものとなった場合、甲はこれによって乙に生じた損害について責任を負わない。
第9条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方の営業上又は税務上の情報を、法令に基づく場合を除き、相手方の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。本条の義務は本契約終了後も存続する。
第10条(契約期間及び解除) 1. 本契約の有効期間は、契約締結日から1年間とし、期間満了の1か月前までにいずれの当事者からも書面による終了の申出がないときは、同一条件でさらに1年間更新するものとし、以後も同様とする。 2. 甲又は乙は、相手方に本契約の重大な違反があり、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず是正されない場合、本契約を解除することができる。
第11条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第12条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 事務所又は法人名:【 】 登録番号:【 】 所在地:【 】 印
(乙) 商号又は氏名:【 】 所在地:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 税理士・税理士法人向け書き換え
A-1. 個人事業主・小規模事業者との顧問契約
第2条1項4号修正例:「記帳代行は乙から提出された領収書等に基づく入力代行に限るものとし、証憑の整理及び分類は乙の責任において行うものとする。」 解説: 小規模事業者は証憑整理まで税理士に期待しがちであるため、記帳代行の範囲を入力作業に限定し業務範囲の膨張を防ぐ。
A-2. 上場準備企業・大企業との顧問契約
第2条2項追加例:「税務調査への立会い及び意見書の作成は、別紙業務委託明細書に定める場合を除き本件業務に含まれず、乙は甲に対し個別に委託するものとする。」 解説: 大企業は税務調査対応が高頻度・高難度になるため、通常顧問業務と切り分けて別報酬とし、対応工数に見合う対価を確保する。
B. 依頼者(法人・個人事業主)向け書き換え
B-1. 創業間もない個人事業主
第7条1項修正例:「月額顧問料金は乙の年間売上高に応じて別紙報酬基準表のとおり変動するものとし、甲乙は毎年契約更新時にこれを見直す。」 解説: 創業初期は売上変動が大きいため、固定顧問料ではなく売上連動型とし、事業成長に応じた負担とする。
B-2. 複数子会社を有する法人
第2条1項追加号:「(5) 連結納税又はグループ通算制度に関する税務相談」 解説: グループ経営を行う法人はグループ通算制度の適用検討が必要になる場合があるため、業務範囲に明記して対応漏れを防ぐ。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、税理士又は税理士法人が継続的に法人又は個人事業主の税務代理・税務書類の作成・税務相談を行う顧問契約に用いる。スポットでの確定申告書作成のみを依頼する場合や、税務以外の経営コンサルティングを主目的とする契約には、業務範囲を別途整理した個別契約書を用いるべきであり、本書式をそのまま流用すべきではない。
根拠法令 税理士業務の範囲は税理士法第2条第1項に定める税務代理・税務書類の作成・税務相談の3業務であり、本書式はこれに沿って委任事務を規定している。税務代理を行う際は同法第30条に基づき税務代理権限証書を提出しなければならない。書面添付制度は同法第33条の2に規定があり、税務調査の際に意見聴取の機会が与えられる制度であるが、税務調査を省略させる効果を保証するものではない点に注意を要する。また、同法第36条は脱税相談等を禁止し、第38条は名義貸しの禁止(不真正な税理士名義の使用禁止)を定めており、いずれも税理士の重要な懲戒事由となる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、記帳代行や税務調査立会いなど付随業務の範囲が曖昧なまま契約し、追加請求を巡って紛争になる失敗がある。第2条及び別紙業務委託明細書で範囲を明細化することで対応する。第二に、乙から提供された資料に誤りがあった場合の責任の所在が不明確になる失敗がある。第8条のように資料の正確性は乙が表明する旨を明記し免責範囲を明確にする。第三に、書面添付制度の効果について依頼者が「税務調査が来なくなる」と誤解する失敗がある。第5条2項のように制度の限界を明記する。これらは一般的な留意点であり、個別事案における契約条件の設計は税理士及び弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 委任事務の範囲(税務代理・税務書類作成・税務相談・付随業務)を具体的に列挙したか
- [ ] 税務代理権限証書の提出について明記したか
- [ ] 書面添付制度を利用するか否か、利用する場合の効果の限界を明記したか
- [ ] 乙の協力義務(資料提出期限・正確性の表明)を規定したか
- [ ] 脱税相談等の禁止及び名義貸しの禁止に抵触しない業務範囲となっているか
- [ ] 月額顧問料と別途報酬(確定申告・税務調査対応等)の区分を明確にしたか
- [ ] 資料不備に起因する結果について甲の免責範囲を定めたか
- [ ] 秘密保持義務の存続期間を定めたか
- [ ] 契約更新及び解除の手続を定めたか
- [ ] 反社会的勢力排除条項を設けたか