親族間などで現金を無償で譲り渡す際に用いる基本書式。民法第549条の贈与の合意を書面化し、口頭贈与の解除(民法第550条)を防いで税務上の証跡も残せます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
贈与契約書(現金)
第1部: 書式本文
【贈与者氏名】(以下「甲」という。)と【受贈者氏名】(以下「乙」という。)とは、甲が乙に対し金銭を無償で譲渡することに関し、次のとおり贈与契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(贈与の合意) 甲は、乙に対し、本契約締結日をもって金【100万】円(以下「本贈与金」という。)を無償で贈与することを約し、乙はこれを受諾した。
第2条(交付方法) 1. 甲は、本贈与金を、【〇〇年〇〇月〇〇日】までに、乙が指定する乙名義の銀行口座(【〇〇銀行〇〇支店 普通 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 名義人〇〇〇〇】)へ振込送金する方法により交付する。 2. 甲及び乙は、現金の手渡しではなく銀行振込による交付方法を採用することにより、贈与の事実及び日付を客観的な記録として残すことを確認する。
第3条(通帳等の管理) 乙は、前条の口座通帳、キャッシュカード及び届出印を自ら保管し、自らの意思で入出金を行うものとする。甲は、交付後の当該口座の管理に一切関与しない。
第4条(書面によらない贈与の解除の制限) 本契約は書面によって締結されたものであるから、民法第550条本文の規定にかかわらず、甲及び乙は、本贈与金の交付前であっても、相手方の同意なく本契約を一方的に解除することはできない。
第5条(贈与税に関する確認) 1. 甲及び乙は、本贈与が相続税法上の贈与税の課税対象となり得ること、及び暦年課税においては受贈者ごとに年間110万円の基礎控除(相続税法第21条の5及び租税特別措置法上の関連規定を含む。)が設けられていることを確認する。 2. 乙は、本贈与を含む【〇〇年】中の受贈財産の合計額に応じ、必要があれば自ら贈与税の申告及び納付を行う。
第6条(単発の贈与であることの確認) 本契約は、本契約締結日における一回限りの贈与を定めるものであり、将来にわたり継続的又は定期的に一定額を贈与することを約するものではない。
第7条(特別受益に関する確認) 甲及び乙は、本贈与が民法第903条にいう特別受益に該当し得ることを確認し、乙は、甲の相続開始後に他の相続人との間で特別受益の持戻し等が問題となる可能性があることを理解した上で本契約を締結する。
第8条(公租公課) 本契約に関連して生じる贈与税その他の公租公課は、法令の定めに従い乙が負担する。
第9条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第10条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 氏名:【 】 印
(乙) 住所:【 】 氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 贈与者(親)向け書き換え
A-1. 子の生活資金援助として一括で渡す場合
第1条修正例:「甲は、乙の【住宅取得資金】に充てる目的で、金【〇〇〇】円を贈与する。」 解説: 使途を明示すると住宅取得等資金の非課税特例など別の税制優遇の適用要件確認につながりやすく、税理士との連携がしやすくなる。
A-2. 交付を複数回に分けたい場合
第2条修正例:「甲は、本贈与金を【〇〇年〇〇月】及び【〇〇年〇〇月】の2回に分けて、各回【〇〇】円ずつ乙の口座に振り込む。」 解説: 分割交付でも本契約が一体の贈与であることを明記しないと、後日、複数の贈与と評価が分かれ基礎控除の適用関係が不明確になる。
A-3. 複数の子に同時期に贈与する場合
前文追加例(別紙添付):「甲は、本贈与と同時期に他の子に対しても別紙記載のとおり贈与を行っており、甲乙はその明細を相互に確認する。」 解説: 子ごとの贈与額に差があると将来の遺産分割協議で不公平感が争点化しやすいため、贈与の記録を相続人間で共有し紛争を予防する。
B. 受贈者(子)向け書き換え
B-1. 未成年の子が受贈者となる場合
前文修正例:「【受贈者氏名】(以下「乙」という。)は未成年者であるため、その法定代理人【親権者氏名】が本契約に同意の上、乙を代理して署名する。」 解説: 未成年者が受贈者の場合、法定代理人の同意又は代理署名がないと契約の効力が争われる余地があるため明記する。
B-2. 口座を新設して受け取る場合
第2条2項追加例:「乙は、本贈与金を受け取るため本契約締結後速やかに乙名義の口座を新設し、その口座番号を甲に通知する。」 解説: 新設口座を用いると資金の出所が明確になり、既存の共用口座への入金より名義預金の疑いを避けやすい。
B-3. 贈与税の申告を税理士に依頼する場合
第8条追加例:「乙は、本贈与に係る贈与税の申告を要する場合、【〇〇年3月15日】までに税理士【氏名】に申告手続を依頼する。」 解説: 基礎控除を超える贈与を受けた翌年は2月1日から3月15日までに申告が必要となるため、期限と依頼先をあらかじめ明記すると申告漏れを防げる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、親族間などで現金を無償で一回限り譲り渡す場面で用いる基本形である。不動産や有価証券など登記・登録を要する財産の移転には対応しておらず、負担(債務の肩代わり等)を伴う贈与や、贈与者の死亡を条件とする贈与には適さない。それぞれ別途の書式を用いるべきである。
根拠法令の解説 贈与契約は民法第549条により、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって効力を生ずる諾成契約である。書面によらない贈与は、民法第550条本文により各当事者が履行の終わった部分を除きいつでも解除できるが、本書式は書面によるためこの解除権は生じない。贈与税の基礎控除については相続税法第21条の5に定めがある。また、親から子への贈与は民法第903条にいう特別受益として将来の遺産分割で持戻しの対象となり得るため、金額や趣旨を書面に残しておくことは、贈与税の証跡だけでなく相続時の紛争予防にも資する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、現金を手渡しで交付し、後日、税務調査で贈与の事実や日付を立証できない失敗がある。第2条のように銀行振込を用いて記録化する。第二に、贈与した資金を贈与者が管理する口座に留め置き、いわゆる名義預金と認定されて相続財産に取り込まれる失敗がある。第3条のように受贈者自身が通帳・印鑑を管理する体制を明記する。第三に、複数年にわたり同額を渡し続け、あらかじめ約束された一体の贈与(定期贈与)とみなされ基礎控除が年ごとに使えなくなる失敗がある。第6条のように単発の贈与である旨を明記する。これらは一般的な留意点であり、税額の試算や個別事案の該当性は税理士・弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 贈与金額と交付期限を具体的に記載したか
- [ ] 現金の手渡しではなく銀行振込等、記録の残る交付方法を採用したか
- [ ] 交付先口座が受贈者本人名義であることを確認したか
- [ ] 通帳・キャッシュカード・届出印を受贈者本人が管理する旨を明記したか
- [ ] 書面による贈与であり民法第550条の解除権が生じない旨を確認したか
- [ ] 受贈者が未成年の場合、法定代理人の同意又は代理署名を得たか
- [ ] 本契約が単発の贈与であり定期贈与ではない旨を明記したか
- [ ] 基礎控除110万円との関係及び年間の他の贈与の有無を確認したか
- [ ] 贈与税の申告義務の有無を受贈者側で確認したか
- [ ] 押印・署名欄に日付と当事者の正確な氏名・住所を記載したか