人材サービス業を新たに立ち上げる企業や、既存事業に人材紹介・人材派遣機能を加えようとする企業にとって、労働者派遣法と職業安定法の違いを理解することは事業設計の出発点になる。両者は「人と仕事を結びつける」という点では似ているが、指揮命令関係の有無や許可要件、実務上の管理義務がまったく異なる。本記事では、事業モデルの選択に迷う経営者・事業責任者、および現場で契約書や台帳を管理する実務担当者を想定し、制度の違いと実務上の落とし穴を整理する。
労働者派遣事業と職業紹介事業の基本的な違い
労働者派遣は、派遣元事業主が雇用する労働者を、雇用関係を維持したまま派遣先に送り出し、派遣先の指揮命令のもとで働かせる仕組みである。労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)が適用され、派遣元・派遣先双方に細かな義務が課される。
一方、職業紹介(人材紹介)は、求職者と求人企業との間の雇用契約成立をあっせんする事業であり、職業安定法が適用される。紹介事業者は労働者を雇用せず、あくまで両者のマッチングを行う立場にとどまる。雇用契約が成立した後の指揮命令は、求人企業と労働者との間で直接生じる。
この違いは事業運営の実務にも直結する。派遣事業では、派遣元が給与計算、社会保険手続、労務管理を担い続ける必要があるのに対し、紹介事業では雇用契約成立後の労務管理は求人企業側の業務となる。事業者としてどちらのビジネスモデルを選ぶかによって、必要な人員体制やシステム投資も大きく変わってくる。
許可要件と欠格事由
労働者派遣事業、有料職業紹介事業のいずれも、厚生労働大臣の許可を受けなければ営むことができない。かつて存在した「特定労働者派遣事業(届出制)」は廃止され、現在は派遣事業全体が許可制に一本化されている点は、制度改正の経緯として押さえておきたい。
許可要件のうち実務上とくに注意すべきなのは、資産要件と職務経験要件である。派遣事業・紹介事業ともに、基準資産額(負債の総額を控除した資産額)が一定水準以上であることや、事業所ごとの現金・預金額の基準を満たす必要がある。また、事業所ごとに職業紹介責任者・派遣元責任者の選任が求められ、選任者には一定の実務経験や講習受講が必要とされる。
| 項目 | 労働者派遣事業 | 有料職業紹介事業 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 労働者派遣法 | 職業安定法 |
| 指揮命令 | 派遣先が行う | 求人企業が直接行う(紹介事業者は関与しない) |
| 許可制度 | 許可制(一本化) | 許可制(一部無料紹介は届出制) |
| 主な責任者 | 派遣元責任者 | 職業紹介責任者 |
| 手数料規制 | 派遣料金は自由(ただし均等・均衡待遇規制あり) | 上限制・届出制のいずれかを選択(求職者からの手数料徴収は原則禁止) |
欠格事由に該当すると許可を受けられない、または既存の許可が取り消される。過去に労働関係法令違反で処分を受けた役員が在籍している場合や、風俗営業等との兼業規制に抵触する場合などが典型例である。新規参入を検討する際は、役員構成や兼業事業の内容を早期にチェックしておくことが望ましい。
派遣可能期間の制限と抵触日通知
労働者派遣には、同一の派遣先で派遣労働者を受け入れられる期間に上限がある。これには「事業所単位の期間制限」と「個人単位の期間制限」の2種類があり、いずれも原則として3年が上限とされている。事業所単位の期間制限を超えて派遣を継続する場合、派遣先は事業所の過半数労働組合等からの意見聴取を行うことで、期間を延長できる。
この期間制限に関連して実務上とくに重要なのが、抵触日の通知義務である。派遣先は、労働者派遣契約を締結する際、派遣元に対して事業所単位の抵触日をあらかじめ書面等で通知しなければならない。この通知がなければ、派遣元は派遣労働者を派遣することができない。
実務フローとしては、次のような順序になる。
- 派遣先が事業所単位の抵触日を算定する
- 派遣先が派遣元に対し、契約締結前に抵触日を通知する(書面・FAX・電子メール等)
- 派遣元は通知を受けてから労働者派遣契約を締結する
- 契約更新のたびに、抵触日に変更がないかを確認する
- 個人単位の期間制限についても、部署異動等で派遣先の「同一の組織単位」が変わったかを確認する
事業所単位の抵触日は、労働組合等への意見聴取によって延長されることがあるため、契約更新のタイミングで最新の抵触日を再確認しないと、通知内容が古いまま契約が継続してしまうことがある。
二重派遣・偽装請負との違い
人材サービス業でとくに注意すべきグレーゾーンが、二重派遣と偽装請負である。二重派遣とは、派遣先がさらに別の会社へ派遣労働者を再派遣する行為であり、労働者派遣法・職業安定法の双方に抵触するおそれがある行為として扱われる。派遣先が「常駐先を変更したい」と考える場合でも、法律上は新たな派遣契約や出向契約として適切に整理する必要がある。
偽装請負は、契約形式は業務委託(請負)となっているにもかかわらず、実態として発注者が受託者の労働者に直接指揮命令を行っている状態を指す。人材サービス業を営む企業がクライアントに要員を提供する際、契約書のタイトルを「業務委託契約」としていても、現場の指揮命令実態が派遣に近い場合、偽装請負と評価されるリスクが生じ得る。
実務上の見分け方として、次のような観点が参考になる。
| 確認観点 | 請負・業務委託として整合的 | 派遣に近いと評価されやすい |
|---|---|---|
| 作業指示 | 受託事業者の管理者が指示する | 発注先の社員が直接指示する |
| 勤怠管理 | 受託事業者が行う | 発注先が出退勤を管理する |
| 設備・機材 | 受託事業者が用意する(原則) | 発注先の設備を前提に業務が組まれる |
| 業務の完成責任 | 受託事業者が負う | 個々の労働力提供が目的になっている |
自社が紹介・派遣事業者であっても、クライアント先の常駐要員管理が実質的に指揮命令化していないか、定期的に現場状況を確認する運用が求められる。
よくある失敗例
- 契約書のタイトルを「業務委託契約」としつつ、実際には常駐先の管理職が要員に日々の作業指示を出しており、契約類型と実態が乖離していた
- 派遣先の事業所移転や組織再編があったにもかかわらず、旧事業所の抵触日をそのまま契約書に転記し続け、更新のたびに確認を怠っていた
- 有料職業紹介の手数料について、求人企業からの手数料に加えて求職者からも金銭を徴収してしまい、職業安定法上の手数料規制に抵触するおそれが生じた
- 個人単位の期間制限を、部署異動があった際に再計算せず、同一の組織単位に3年を超えて同じ派遣労働者を配置し続けていた
- 派遣元責任者・職業紹介責任者の選任講習の受講期限管理ができておらず、更新研修を失念したまま事業を継続していた
よくある質問(FAQ)
Q1. 人材派遣と業務委託(請負)はどう見分ければよいですか。
指揮命令の所在が最大のポイントとされる。発注先の社員が受託事業者側の労働者に対して日々の作業指示や勤怠管理を直接行っている場合、契約書の名称にかかわらず派遣に近い実態と評価される可能性がある。契約書の文言だけでなく、現場運用まで含めて確認することが望ましい。
Q2. 事業所単位の抵触日はどのように延長できますか。
派遣先が、事業所の過半数労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)から意見を聴取した上で、抵触日を延長することができるとされている。意見聴取の手続や記録の保存が適切に行われているかは、実務上重要な確認事項である。
Q3. 職業紹介事業で求職者から手数料を取ることはできますか。
有料職業紹介事業では、原則として求職者から手数料を徴収することは認められておらず、一部の職種・年収要件を満たす場合に限り例外的に認められる枠組みがある。求職者向けの料金体系を設計する際は、職業安定法上の手数料規制に照らして確認することが望ましい。
まとめ
- 労働者派遣は指揮命令が派遣先に移る点、職業紹介は雇用契約成立のあっせんにとどまる点が最大の違いである
- いずれも許可制であり、資産要件・責任者選任・欠格事由の確認が必要になる
- 派遣可能期間には事業所単位・個人単位の制限があり、抵触日の通知・再確認を契約更新のたびに行う必要がある
- 二重派遣や偽装請負は、契約書の名称ではなく現場の指揮命令実態で評価されるため、定期的な現場確認が欠かせない
- 職業紹介の手数料規制など、求職者・求人企業双方への金銭のやり取りには法令上の制約があることに留意する
個別労働者派遣契約書テンプレートを確認し、抵触日通知の記載欄や派遣条件の明示事項が自社の運用と合っているか見直すとよい。
本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
[要確認事項] - 派遣可能期間の延長手続(意見聴取の具体的な記載事項・保存期間)について、最新の運用実務に基づき監修者確認が必要。 - 有料職業紹介事業の手数料上限・届出制の選択に関する数値・要件について、最新の告示内容を確認すること。