施設の常駐警備、イベント警備、機械警備の監視など、警備業務を外部の警備会社に委託する場面は多い。警備業務は人の生命・身体・財産に直結する業務であり、警備業法による特別の規制も及ぶことから、一般的な業務委託契約とは異なる観点での契約設計が必要になる。本記事では、警備業務委託契約を締結・運用する際に押さえておくべき警備業法の規制、仕様書の作り方、事故発生時の責任分担、再委託の制限について、発注者・受注者双方の実務担当者向けに整理する。

警備業法による規制の全体像

警備業を営むには、警備業法に基づき、営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会の認定を受ける必要がある(警備業法4条)。欠格事由(一定の前科がある、暴力団関係者である等)に該当する場合は認定を受けられず、無認定で警備業を営むことは同法上の処罰対象となる。警備業務を委託する発注者としては、委託先が適法に認定を受けた警備業者であるかを、契約締結前に確認しておくことが望ましい。

警備業法上、警備業務は次の4区分に分類されている。

区分 業務内容の例
1号業務 施設警備、雑踏警備、保安警備など、事務所・住宅・興行場等における盗難等の事故発生を警戒・防止する業務
2号業務 交通誘導警備、雑踏警備(道路上・工事現場等での人・車両の誘導、雑踏事故の防止)
3号業務 貴重品運搬警備(現金・貴金属等の運搬中の事故発生の警戒・防止)
4号業務 身辺警備(人の生命・身体に対する危害の発生を警戒・防止するボディーガード業務)

委託する警備業務がどの区分に該当するかによって、必要な教育内容や配置基準(交通誘導警備員の検定資格者配置義務等)が異なる場合があるため、契約締結前に業務区分を整理しておく必要がある。

また、警備業法21条は、警備業者に対し、警備業務に従事させる警備員に必要な教育(新任教育・現任教育)を行う義務を課している。委託先が法定の教育を実施しているかどうかは、警備品質やトラブル発生時の責任の所在にも関わるため、契約書や覚書で教育実施状況の報告を求める条項を設けることも考えられる。

仕様書の作り方

警備業務委託契約は、契約書本体だけでなく、業務の詳細を定める仕様書とセットで運用されるのが一般的である。仕様書には、少なくとも次の事項を具体的に記載することが望ましい。

  • 警備の対象施設・区域(住所、対象範囲の図面等)
  • 警備業務の区分(1号〜4号のいずれか)と具体的な業務内容
  • 配置人数、勤務時間帯、シフト体制(常駐か巡回か、休憩時間の取扱い)
  • 使用する制服・装備品、警備用機器(機械警備の場合はセンサー・通報装置の仕様)
  • 緊急時対応手順(異常事態発生時の通報先、初動対応の内容)
  • 報告体制(日報・月報の様式、事故発生時の報告期限)

仕様書の記載が抽象的だと、発注者が期待する警備水準と、実際に提供される警備サービスの内容にずれが生じ、後日「聞いていた内容と違う」といったトラブルにつながりやすい。特に配置人数や勤務時間帯は、委託料の算定根拠にも直結するため、契約書または仕様書に明記しておくことが重要である。

事故発生時の責任分担

警備業務の遂行中に事故(盗難の発生、来訪者・第三者への傷害、警備員自身の負傷等)が発生した場合の責任の所在は、契約書上あらかじめ整理しておくべき重要な論点である。警備業法21条は、警備業者が警備業務を行う中で他人に損害を加えたときの賠償責任について定めており、警備業者は損害賠償責任を負うことがある。

契約書には、次のような点を明記しておくことが望ましい。

  • 警備業者の故意・過失により発生した事故については、警備業者が損害賠償責任を負う旨
  • 発注者側の指示・設備の瑕疵に起因する事故については、発注者が責任を負う場合がある旨
  • 警備業者が損害賠償保険(警備業者賠償責任保険等)に加入しているかどうか、加入を求める場合はその補償限度額
  • 事故発生時の報告義務(発生後、何時間以内に発注者へ報告するか)と、原因調査・再発防止策の協議

損害賠償責任の範囲や上限額を契約書で定めずにいると、重大事故が発生した際に、警備業者の賠償能力を超える損害が生じ、発注者が実質的に損害を回収できないおそれもある。委託先の保険加入状況を事前に確認し、必要に応じて契約書に保険加入を義務付ける条項を設けることが実務上有効と考えられる。

再委託の制限

警備業務を受託した警備業者が、業務の全部または一部をさらに別の警備業者に再委託(下請け)することがある。警備業法自体は再委託を一律に禁止しているわけではないが、再委託先が適法な認定を受けた警備業者であるか、必要な教育を実施しているかなど、発注者が直接関与できない部分でリスクが生じやすい。

そのため、契約書には次のような再委託に関する条項を設けることが望ましい。

  • 再委託を行う場合は、事前に発注者の書面による承諾を得ることを必要とする
  • 再委託先についても、委託先(元請け)と同等の義務(教育実施、保険加入等)を負わせることを委託先に義務付ける
  • 再委託先の行為について、委託先(元請け)が発注者に対して責任を負うことを明記する

再委託を無制限に許容してしまうと、実際に現場に立つ警備員がどの会社に所属し、どのような教育を受けているかが把握しづらくなり、事故発生時の責任追及が複雑化するおそれがある。

警備業務委託契約の実務手順

一般的な契約締結の流れは次のとおりである。

  1. 委託する警備業務の区分・範囲を整理し、仕様書案を作成する
  2. 委託候補先の警備業認定の有無、教育体制、保険加入状況を確認する
  3. 委託料の算定根拠(人数・時間・単価)を協議する
  4. 契約書・仕様書を作成し、責任分担・再委託の条項を明確にする
  5. 契約締結後も、定期的な報告(日報・月報)や現場確認により、履行状況をモニタリングする

よくある失敗パターン

警備業務委託契約の締結・運用をめぐっては、次のような失敗が実務上しばしば見られる。

  • 委託先が警備業の認定を受けているかを確認せず契約を締結し、後日、無認定業者であったことが判明した
  • 仕様書の配置人数・勤務時間帯の記載が曖昧で、実際の配置と契約内容の食い違いをめぐって委託料の精算トラブルになった
  • 事故発生時の責任分担を定めておらず、盗難や傷害事故が発生した際に、発注者・警備業者のどちらが賠償責任を負うかで争いになった
  • 委託先の保険加入状況を確認しないまま契約し、重大事故発生時に十分な補償を受けられなかった
  • 再委託に関する承諾条項を設けておらず、発注者の知らないところで別の警備業者に業務が再委託されていた

よくある質問(FAQ)

Q1. 警備業の認定を受けていない業者と契約してしまった場合、どうなりますか。

無認定で警備業を営むことは警備業法上の規制対象とされており、委託先が無認定業者であった場合、委託契約の有効性や発注者側の責任が問題になるおそれがある。契約締結前に、委託先が警備業の認定を受けているかを確認しておくことが望ましい。確認方法や契約締結後に判明した場合の対応については、弁護士等の専門家に相談することが望ましい。

Q2. 警備員のミスで盗難事故が発生した場合、発注者にも責任が及ぶことはありますか。

警備員の故意・過失により事故が発生した場合、原則として警備業者が損害賠償責任を負うと考えられる。ただし、発注者側の指示内容や設備の不備が事故の原因となっている場合には、発注者にも一定の責任が及ぶ可能性がある。責任分担は事案の具体的な事情によって判断されるため、契約書上の責任分担条項を明確にしておくとともに、個別の事故対応については専門家への相談を検討することが望ましい。

Q3. 交通誘導警備を委託する場合、特に注意すべき点はありますか。

交通誘導警備(2号業務)は、道路上での人・車両の誘導を行うものであり、都道府県によっては、一定の現場において検定資格者(交通誘導警備業務検定合格者)の配置が求められる場合がある。配置基準は地域や現場の状況によって異なるため、委託先に配置基準の遵守状況を確認し、必要に応じて契約書・仕様書に明記しておくことが望ましい。

まとめ

警備業務委託契約を締結・運用する際は、次の点を押さえておきたい。

  • 委託先が警備業法上の認定を受けた警備業者であるかを事前に確認する
  • 仕様書には警備区分、配置人数、勤務時間帯、緊急時対応手順を具体的に記載する
  • 事故発生時の責任分担を契約書上明確にし、委託先の保険加入状況も確認する
  • 再委託を行う場合は事前承諾を必要とし、再委託先にも同等の義務を課す

警備業務委託契約を作成する際は、警備業務委託契約書テンプレートも参考になる。

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 警備業法4条・21条の認定要件、教育義務、損害賠償責任の記載内容の正確性について要確認。 - 交通誘導警備業務検定資格者の配置義務の対象範囲(都道府県・現場条件)の記載について監修者確認が必要。