私傷病やメンタルヘルス不調により長期間就労できない従業員が生じた場合、休職制度が整備されていないと、対応の判断が場当たり的になりやすい。休職制度は法律で義務付けられた制度ではないが、多くの企業が就業規則に定め、解雇を猶予する趣旨の制度として運用している。本記事では、休職規程に定めるべき事由・期間・復職判定手続を整理し、メンタルヘルス不調による休職・復職を繰り返すケースへの対応も含めて解説する。

休職制度の位置づけと目的

休職制度は、労働基準法をはじめとする法律上、企業に導入が義務付けられている制度ではない。多くの企業が就業規則や休職規程の中で任意に設けている制度であり、私傷病等により一定期間就労できない従業員について、直ちに解雇するのではなく、一定期間の療養機会を与え、その期間内に回復すれば復職を認めるという、いわば「解雇猶予」的な性質を持つ制度として運用されている。

休職制度がない場合、私傷病により就労が困難になった従業員への対応は、就業規則上の解雇事由や普通解雇の手続きに沿って個別に判断せざるを得ない。休職規程を整備しておくことで、事由の発生から復職または退職に至るまでの手続きを一貫したルールに基づいて進めやすくなる。

休職事由の整理

休職規程では、休職を命じる事由を明確にしておく必要がある。代表的な休職事由には、次のようなものがある。

  • 私傷病休職:業務外の傷病により長期間の療養が必要な場合
  • 事故欠勤休職:私傷病以外の事故等により一定期間の欠勤が続く場合
  • 起訴休職:刑事事件で起訴され、公判係属中に就労させることが適当でないと判断される場合
  • 出向休職・自己都合休職:出向先での勤務や留学等、企業側が任意に定める事由

実務上もっとも多く運用されるのは私傷病休職であり、本記事でも私傷病休職を中心に取り上げる。

休職期間の設計

休職期間は、企業が任意に設計できる部分であるが、勤続年数に応じて段階的に休職可能期間を長くする設計が実務上よく用いられている。

勤続年数 休職可能期間の例
1年未満 休職を認めない、または1〜3か月程度
1年以上3年未満 3か月程度
3年以上5年未満 6か月程度
5年以上 6か月〜1年程度

上記はあくまで一般的な設計例であり、企業規模、業種、就業人数、傷病手当金制度との兼ね合いなどを踏まえて自社に合った期間を検討する必要がある。休職期間を過度に短く設定すると、復職の機会を十分に与えないまま退職扱いとなり、後日その手続きの相当性が問題になるおそれがある。反対に長期間に設定しすぎると、代替要員の確保や組織運営上の負担が大きくなる点も考慮したい。

休職中の賃金・社会保険料の取扱い

休職中の賃金については、無給とする例が多く、就業規則・休職規程にその旨を明記しておく必要がある。無給とする場合、従業員は健康保険の傷病手当金制度(一定の要件を満たせば標準報酬日額の3分の2相当額が支給される制度)を利用できる場合があるため、休職規程や休職発令の際の案内文書で、傷病手当金制度についても触れておくと従業員の不安を軽減しやすい。

休職中も雇用関係自体は継続しているため、社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格は原則として維持される。賃金が支払われない期間であっても本人負担分の保険料は発生するため、休職規程では次の点を明記しておくことが望ましい。

  • 休職中の社会保険料の会社負担分・本人負担分の取扱い
  • 本人負担分の徴収方法(休職前に一括で預かる、復職後に精算する等)
  • 休職期間が長期に及ぶ場合の連絡・報告義務(診断書の提出頻度等)

休職発令時の通知文書としては、休職発令通知書テンプレートのような書式を用いて、休職期間・賃金の取扱い・社会保険料の精算方法をあわせて本人に書面で通知しておくと、後日の認識違いを避けやすい。

復職判定の手続

復職の可否をどのように判断するかは、休職規程の中でも特にトラブルになりやすい部分である。実務上は、主治医の診断書の提出を求めるだけでなく、産業医面談を経る運用が広く行われている。

復職判定の一般的な流れ

  1. 本人から復職を希望する旨の申し出と、主治医の診断書(就労可能である旨の記載を含む)の提出を受ける
  2. 産業医面談を実施し、業務内容に照らして就労が可能な状態かを確認する
  3. 必要に応じて、試し出勤・リハビリ出勤制度を活用し、段階的に就労可能性を見極める
  4. 人事・所属長を交えて復職の可否、復職後の業務内容・勤務時間の調整を判断する

主治医の診断書は、患者本人の申告に基づいて作成される面が大きく、必ずしも職場の具体的な業務内容を踏まえた判断とは限らないと指摘されることがある。そのため、産業医面談を組み合わせることで、実際の職場環境・業務内容に即した判断を行いやすくする運用が一般的になっている。試し出勤・リハビリ出勤制度を設ける場合は、その間の労働時間該当性や賃金の取扱いについても、休職規程やメンタルヘルス対策規程で事前に整理しておく必要がある。

休職期間満了時の取扱い

休職期間が満了しても復職できない場合の取扱いは、休職規程上「自然退職(自動退職)」とするか、「解雇」の手続きによるかで、必要な手続きが異なってくる。

自然退職として構成する場合、休職期間満了により雇用契約が当然に終了する旨を休職規程に明記しておくことが前提となる。解雇として構成する場合は、就業規則上の解雇事由に該当することを確認したうえで、解雇予告等の手続きを履践する必要がある。どちらの構成を採用するかによって、手続きの流れや必要書類が異なるため、規程上どちらの取扱いとするかをあらかじめ明確にしておくことが望ましい。

休職期間満了が近づいた場合には、本人に対して期限と手続きを明確に伝える必要があり、休職期間満了通知書テンプレートのような書式を用いて、書面で通知しておく方法が実務上とられることが多い。

メンタルヘルス不調と休職・復職の繰り返しへの対応

近年、メンタルヘルス不調を理由とする休職が増加傾向にあるとされており、いったん復職しても再び体調を崩し、短期間のうちに休職を繰り返す、いわゆる「回転ドア現象」が課題として指摘されている。

この課題への実務的な対応として、休職期間を通算する規定を設ける例がある。たとえば「復職後6か月以内に同一または類似の傷病により再度休職する場合には、休職期間を通算する」といった規定を置くことで、休職と復職を繰り返すことによって休職可能期間が実質的に無制限になることを防ぐ設計である。通算規定を設ける場合は、その適用範囲(同一傷病に限るか、類似の傷病も含むか)や通算対象となる期間を明確にしておく必要がある。

メンタルヘルス対応全般については、休職規程だけでなく、メンタルヘルス対策規程テンプレートのように、予防・早期発見・休職・復職支援を一連の流れとして整理した規程を別途整備する企業も増えている。

よくある失敗例

  • 休職期間の設計が勤続年数に関わらず一律で、長期勤続者の療養機会が実質的に不足している
  • 復職判定を主治医の診断書のみで行い、産業医面談を経ないまま復職させた結果、短期間で再度休職に至った
  • 休職期間満了時の取扱いが「自然退職」か「解雇」か規程上不明確なまま運用されている
  • 休職・復職を繰り返す従業員について通算規定がなく、休職可能期間が実質的に延び続けている
  • 休職中の社会保険料の精算方法が決まっておらず、復職時にまとまった金額の請求でトラブルになる

よくある質問(FAQ)

Q1. 休職制度は必ず設けなければなりませんか。

休職制度は法律上の義務ではなく、就業規則で任意に設ける制度である。ただし、休職制度がない場合、私傷病により就労が困難な従業員への対応を解雇の手続きに沿って行わざるを得なくなり、対応の柔軟性に欠けるおそれがある。多くの企業が解雇猶予の観点から休職制度を導入している。

Q2. 休職期間満了時に復職できない従業員は、自動的に退職させることができますか。

休職規程に「休職期間満了時に復職できない場合は自然退職とする」旨が明記されていれば、その規定に基づいて退職の手続きを進めることが一般的に可能と考えられている。ただし、休職期間満了間際の復職可否の判断に争いがある場合や、規程の記載が不明確な場合には、手続きの適法性が問題になるおそれがあるため、個別の状況に応じて弁護士等の専門家に確認することが望ましい。

Q3. 主治医が「復職可能」と診断していれば、企業は復職を認めなければなりませんか。

主治医の診断書は復職判断の重要な資料であるが、それだけで復職の可否を最終的に決定しなければならないとまでは言い切れない。主治医は必ずしも職場の具体的な業務内容を把握していない場合があるため、産業医面談等を通じて、実際の業務に照らして就労可能かを確認する運用が広く行われている。判断に迷う場合は、産業医や弁護士等の専門家の助言を踏まえて対応することが望ましい。

まとめ

  • 休職制度は法律上の義務ではなく、多くの企業が解雇猶予の趣旨で就業規則に任意に定めている制度である
  • 休職事由(私傷病休職、事故欠勤休職、起訴休職等)と、勤続年数に応じた休職期間の設計を規程に明記する
  • 休職中の賃金の取扱い(無給とする例が多い)と社会保険料の精算方法を規程で明確にしておく
  • 復職判定は主治医の診断書に加えて産業医面談を組み合わせ、試し出勤等の制度も活用する
  • 休職期間満了時の取扱い(自然退職か解雇か)を規程上明確にし、休職・復職を繰り返す場合の通算規定も検討する

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 休職期間満了時の「自然退職」構成と「解雇」構成の適法性・手続き上の相違点について、監修者による最新の実務・裁判例を踏まえた確認が必要。 - 休職期間の通算規定の設計例(対象期間・適用範囲)について、業種・企業規模別の相場感を監修者に確認したい。