オフィスビル、商業施設、工場などの清掃業務は、専門の清掃業者に委託することが一般的である。清掃業務委託契約は一見シンプルな業務委託に見えるが、仕様書の作り込みが不十分だとトラブルの温床になりやすく、また現場での指揮命令の実態次第では労働者派遣法上の「偽装請負」に該当するリスクもはらんでいる。本記事では、清掃業務委託契約を締結・運用する際のチェックポイントとして、仕様書の重要性、偽装請負とならないための注意点、単価改定のルール、損害賠償責任の範囲を、発注者・受注者双方の実務担当者向けに整理する。

清掃業務委託契約の特徴

清掃業務委託契約は、発注者(ビルオーナー、テナント、施設管理会社等)が、清掃業者に対して、一定の対象区域について継続的に清掃業務を委託する契約である。多くの場合、清掃業務は日常清掃(日次・週次で行う床清掃、ゴミ回収等)と定期清掃(月次・年次で行うワックスがけ、窓ガラス清掃等)に分かれ、それぞれ作業内容・頻度・単価が異なる。

清掃業務委託契約でトラブルになりやすいのは、主に次の3点である。

  • 作業範囲・品質水準の認識の相違(仕様書の記載が曖昧であることに起因する)
  • 現場での指揮命令の実態が労働者派遣に該当するとみなされるリスク(偽装請負)
  • 委託期間中の物価・最低賃金の変動に伴う単価改定をめぐる交渉

仕様書の重要性

清掃業務委託契約においては、契約書本体に加えて、業務の詳細を定める仕様書を整備することが極めて重要である。仕様書の記載が曖昧だと、発注者が期待する清掃水準と実際に提供される作業内容にずれが生じ、「仕上がりが悪い」「契約範囲外の作業まで求められた」といったトラブルの原因になりやすい。

仕様書には、少なくとも次の事項を具体的に記載することが望ましい。

項目 記載内容の例
対象区域 清掃対象の場所(共用部、専有部、トイレ、外構等)を図面等で特定
作業内容・頻度 日常清掃・定期清掃それぞれの作業項目と実施頻度(毎日、週2回、月1回等)
作業時間帯 業務時間内清掃か、営業時間外(早朝・深夜)清掃か
使用資材・機材 清掃用具・洗剤等の負担者(発注者支給か受注者調達か)
人員体制 配置人数、責任者の選任、緊急時の連絡体制
品質確認方法 検査・立会いの方法、不備があった場合の是正手順

仕様書を整備しておくことで、委託料の算定根拠が明確になるとともに、業務範囲外の追加作業を依頼する際の追加費用の交渉も行いやすくなる。

偽装請負とならないための注意点

清掃業務委託契約で特に注意すべきなのが、いわゆる「偽装請負」に該当するリスクである。偽装請負とは、契約形式上は業務委託(請負)であるにもかかわらず、実態としては発注者が受注者の従業員に対して直接指揮命令を行っており、労働者派遣法上の労働者派遣に該当するとみなされる状態をいう。

請負と労働者派遣の区分は、昭和61年労働省告示第37号(いわゆる37号告示)に示された基準に基づき、業務の遂行方法・労働時間等について、受注者(委託先)が自ら管理し、発注者が受注者の労働者に対して直接指示を行っていないかどうかによって判断される。清掃業務のように、発注者の施設内で日常的に作業が行われる業務では、発注者の現場担当者が清掃スタッフに直接指示を出してしまいがちであり、この点が偽装請負のリスクを高める要因になる。

請負と労働者派遣の判断における主な着眼点を整理すると、次のとおりである。

着眼点 適法な請負 偽装請負のおそれ
業務の指示 受注者の責任者が清掃スタッフに指示 発注者の担当者が清掃スタッフに直接指示
作業手順・スケジュール 受注者が自ら決定・管理 発注者が作業手順・時間配分を細かく指定
労務管理 受注者が勤怠管理・配置転換を行う 発注者が出退勤や人員配置を実質的に決定
業務遂行の独立性 受注者が自己の設備・技術で業務を完成させる 発注者の設備・指揮下で作業員が動くのみ

このリスクを避けるためには、契約書・仕様書上で業務内容や成果物を明確に定めた上で、現場運用においても、発注者の担当者が清掃スタッフへ直接指示を出すのではなく、受注者側の現場責任者を通じて連絡・調整を行う体制を徹底することが重要である。日々の業務の中で発注者担当者が個々のスタッフへ直接指示を出す運用が常態化している場合には、契約実態が偽装請負に該当するおそれがあるため、業務フローの見直しを検討する必要がある。

単価改定のルール

清掃業務委託契約は複数年にわたる継続的契約であることが多く、契約期間中に最低賃金の引上げや資材価格の上昇が生じることがある。単価改定に関するルールを契約書に定めていないと、受注者側が採算割れのまま業務を継続せざるを得なくなったり、逆に発注者側が根拠のない値上げ要求を受けたりするおそれがある。

単価改定条項を設計する際は、次のような点を検討することが望ましい。

  • 単価改定の協議を行うタイミング(契約更新時、毎年一定時期、最低賃金改定時等)
  • 改定を求める際の根拠資料の提出義務(人件費上昇の根拠、地域別最低賃金の改定状況等)
  • 協議が整わない場合の取扱い(従前単価での継続か、契約解除の余地を残すか)
  • 消費税率変更等、外形的に明らかな事由による単価調整の自動反映

特に人件費が委託料の大部分を占める清掃業務では、最低賃金の改定(都道府県ごとに毎年10月頃に改定されるのが通例)を踏まえた単価見直しの協議条項を設けておくことが、双方にとって安定的な契約運用につながると考えられる。

損害賠償責任の範囲

清掃業務中に、什器・備品の破損、床材の損傷、清掃スタッフの事故等が発生することがある。契約書には、次のような点を明記しておくことが望ましい。

  • 受注者の故意・過失により発生した損害について、受注者が賠償責任を負う旨
  • 損害賠償責任の範囲(直接損害に限定するか、逸失利益等の間接損害を含むか)
  • 損害賠償責任の上限額(委託料の一定倍数を上限とする等)を設けるかどうか
  • 受注者の損害保険(施設賠償責任保険等)への加入の要否

損害賠償の範囲や上限額を定めずにいると、軽微な作業ミスによる損害について過大な請求を受けたり、逆に重大な損害が発生した場合に受注者の賠償能力を超えて発注者が損害を回収できなかったりするおそれがある。委託料の規模や業務のリスクに応じて、合理的な上限額を設定することが実務上有効と考えられる。

よくある失敗パターン

清掃業務委託契約の締結・運用をめぐっては、次のような失敗が実務上しばしば見られる。

  • 仕様書の作業内容・頻度の記載が曖昧で、契約範囲外の作業を求められた、あるいは仕上がりの水準をめぐって認識の相違が生じた
  • 発注者の現場担当者が清掃スタッフに日常的に直接指示を出しており、偽装請負に該当するおそれのある運用が常態化していた
  • 単価改定の協議条項がなく、最低賃金の引上げにより受注者が採算割れのまま契約を継続せざるを得なくなった
  • 損害賠償責任の上限額を定めておらず、軽微な破損事故について過大な賠償請求を受けた
  • 使用資材・機材の負担者を明記しておらず、清掃用具の調達費用の負担をめぐって費用精算のトラブルになった

よくある質問(FAQ)

Q1. 発注者の担当者が清掃スタッフに直接注意することは、すべて偽装請負に該当しますか。

業務品質に関する簡単な指摘や情報共有と、日常的な作業指示・労務管理は区別して考える必要がある。発注者担当者が清掃スタッフの作業手順や労働時間を実質的に管理している状態が常態化している場合には、労働者派遣に該当するとみなされるリスクが高まると考えられる。個別の運用が偽装請負に該当するかどうかは実態に即して判断されるため、疑義がある場合は弁護士等の専門家に相談することが望ましい。

Q2. 最低賃金が上がった場合、契約期間中でも委託料の値上げに応じる必要がありますか。

契約書に単価改定の協議条項を設けている場合、その条項に従って協議を行うことになる。協議条項がない場合でも、当事者間で合意すれば単価を改定することは可能であるが、一方的に値上げを強制されるものではないと考えられる。契約期間中の単価改定を円滑に行うためには、あらかじめ協議のタイミングや根拠資料の提出方法を契約書に定めておくことが望ましい。

Q3. 清掃中に発生した什器の破損は、必ず受注者が賠償する必要がありますか。

一般的には、受注者(清掃業者)の故意・過失により損害が発生した場合に、受注者が賠償責任を負うと考えられる。ただし、発注者側の什器の経年劣化や既存の不具合が損害の原因である場合など、受注者の過失によらない事情がある場合には、責任の所在が争われる可能性がある。損害賠償責任の範囲・上限額を契約書に明記しておくとともに、個別の事故については専門家への相談を検討することが望ましい。

まとめ

清掃業務委託契約を締結・運用する際は、次の点を押さえておきたい。

  • 仕様書には対象区域、作業内容・頻度、人員体制、品質確認方法を具体的に記載する
  • 発注者担当者が清掃スタッフに直接指示を出す運用は偽装請負のリスクを高めるため、現場責任者を通じた連絡体制を徹底する
  • 単価改定条項を設け、最低賃金改定等の事情に応じた協議のタイミングと手続を明確にする
  • 損害賠償責任の範囲・上限額を契約書上明記し、保険加入の要否も検討する

清掃業務委託契約を作成する際は、清掃業務委託契約書テンプレートも参考になる。

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 昭和61年労働省告示第37号(37号告示)の判断基準の記載内容の正確性について要確認。 - 最低賃金の改定時期(都道府県ごとの慣行)に関する記載の正確性について監修者確認が必要。