社有車や営業車を保有する企業では、従業員が運転中に事故を起こした場合、会社自身が損害賠償責任を問われる可能性がある。あわせて、道路交通法上、一定台数以上の自動車を使用する事業所には安全運転管理者の選任義務があり、近年はアルコールチェックの義務化も進んでいる。本記事では、車両管理規程に定めるべき項目と、安全運転管理者・アルコールチェック対応の実務ポイントを整理する。

車両管理規程を整備する意義

社有車・営業車を保有する企業は、単に車両を貸与するだけでなく、運転者の資格確認、車両の点検・整備、事故発生時の対応フローなど、車両の利用に関するルールを体系的に定めておく必要がある。車両管理規程がないまま運用していると、事故発生時に誰がどのような対応をとるべきかが不明確になり、初動対応の遅れや、社内での責任の所在が曖昧になるといった問題が生じやすい。

車両管理規程に定めるべき主な項目は、次のとおりである。

  • 運転者の資格要件(運転免許の保有、社内での運転許可制度の有無)
  • 運転免許証の定期確認(有効期限、違反歴の確認頻度)
  • 車両の点検・整備に関する義務(日常点検、法定点検の実施)
  • 車両の使用手続(利用申請、使用記録の作成)
  • 飲酒運転の禁止とアルコールチェックの実施方法
  • 事故発生時の対応フロー(報告先、保険会社への連絡、被害者対応)
  • 車両管理者・安全運転管理者の役割と権限

出張時の車両利用については出張時車両利用規程テンプレート、配送業務など日常的な車両利用が発生する業務については配送業務車両利用ルールテンプレートのような書式を土台に、自社の車両保有状況・業務内容に応じてカスタマイズする方法が実務上とられている。

安全運転管理者の選任義務

道路交通法第74条の3及び関連する法令は、一定台数以上の自動車を使用する事業所に対し、安全運転管理者の選任を義務付けている。選任義務が生じる目安として、一般的に次のような基準が紹介されている。

使用する自動車の状況 選任義務の目安
乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用する場合 安全運転管理者の選任義務あり
その他の自動車(乗車定員10人以下)を5台以上使用する場合 安全運転管理者の選任義務あり
上記に満たない場合 選任義務は生じない(ただし自主的な選任は可能)

なお、自動二輪車(原動機付自転車を除く)は0.5台として計算するなど、台数の数え方には細かいルールがあるとされているため、正確な該当台数・選任義務の有無については、最新の警察庁の公表資料や所轄の警察署で確認することが望ましい。

安全運転管理者の主な業務には、運転者の適性等の把握、運行計画の作成、長距離運転・夜間運転時の交替要員の配置、異常気象時の安全確保のための措置、点呼等による飲酒・過労・病気等の確認、運転日誌の記録、安全運転指導などが含まれる。選任した安全運転管理者は、選任後15日以内に事業所の所在地を管轄する公安委員会(警察署)に届出を行う必要がある。

車両台数が20台以上の事業所では、安全運転管理者に加えて副安全運転管理者の選任も義務付けられている点にも注意したい。

アルコールチェック義務化の経緯と対応

2022年の道路交通法施行規則の改正により、一定台数以上の白ナンバー車両(緑ナンバー等の運送事業用車両ではない、自家用車両として使用される社有車等)を使用する事業所においても、安全運転管理者によるアルコールチェックが義務化された。当初は、運転前後の運転者に対する目視等での酒気帯びの確認が中心とされていたが、その後、アルコール検知器を用いた確認の義務化が予定され、段階的に施行された経緯がある。

アルコールチェックの実施にあたっては、次のような運用体制を整えておく必要がある。

  • 運転前後に、運転者の状態を目視等で確認し、酒気帯びの有無を確認する
  • アルコール検知器を用いて、運転者の酒気帯びの有無を確認する
  • 確認内容(確認者、確認方法、確認日時、対象者、アルコール検知器の使用の有無、酒気帯びの有無等)を記録し、一定期間保存する
  • アルコール検知器を常時有効に保持する(正常に作動する状態を保つ、定期的な故障確認を行う)
  • 直行直帰等で対面での確認が困難な場合の代替手段(カメラ、モニター等を利用した確認方法)を整備する

アルコールチェック義務化の具体的な適用時期や対象事業所の要件、検知器の仕様に関する要件は法令改正や運用の見直しにより変わり得るため、車両管理規程を整備・改定する際には、最新の警察庁公表資料や道路交通法施行規則の内容を確認することが不可欠である。

事故発生時の対応フロー

車両管理規程には、事故発生時の対応フローをあらかじめ明記しておくことが重要である。一般的な対応フローは次のとおりである。

  1. 負傷者がいる場合は、まず救護措置を行う(道路交通法上、事故当事者には救護義務・報告義務がある)
  2. 警察に事故発生を報告する
  3. 会社(車両管理者・上長)に事故発生を速やかに報告する
  4. 加入している任意保険会社・自賠責保険の窓口に連絡する
  5. 相手方(被害者)がいる場合は、会社としての対応窓口を明確にし、個人判断での示談等を行わないよう周知する
  6. 事故状況を記録し、再発防止策を検討する

特に4と5の対応が遅れると、保険の適用に支障が出たり、被害者対応が後手に回ったりするおそれがあるため、緊急連絡先や対応フローを運転者が携行しやすい形(車両内への掲示、携帯用カード等)で周知しておくことが実務上有効とされている。

使用者責任・運行供用者責任の基本的な考え方

従業員が業務中に社有車で事故を起こした場合、会社が損害賠償責任を負う可能性がある根拠として、主に次の2つが挙げられる。

  • 民法第715条(使用者責任):被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を、使用者が賠償する責任を負うとされている
  • 自動車損害賠償保障法第3条(運行供用者責任):自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命・身体を害したときに損害賠償責任を負うとされている

これらの責任は、会社が任意保険に加入していれば当然に免れるものではなく、保険の補償範囲や免責事由によっては、会社が自己負担で対応しなければならない場面も生じ得る。そのため、車両管理規程では、任意保険の加入状況(対人・対物賠償の限度額、搭乗者傷害保険の有無等)を定期的に確認し、必要に応じて補償内容を見直す体制を整えておくことが望ましい。

私有車の業務利用(マイカー通勤・営業利用)

社有車だけでなく、従業員の私有車を通勤や営業活動に利用させている企業もある。この場合、次の点を規程で明確にしておく必要がある。

  • 私有車の業務利用を許可制とし、事前申請・承認を求める
  • 私有車を利用する従業員が、対人・対物賠償無制限の任意保険に加入していることを確認する(保険証券の写しの提出等)
  • 任意保険の加入状況を定期的に(年1回程度)確認・更新する
  • 通勤手当・出張旅費として支給する金額と、業務利用に伴うガソリン代・保険料負担との関係を整理する
  • 私有車利用中の事故についても、会社への報告義務や対応フローを社有車と同様に定める

私有車を業務利用させている場合、従業員が任意保険に未加入または補償内容が不十分なまま事故を起こすと、会社が使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性がある一方で、被害者への補償が十分に行われないリスクも生じる。そのため、私有車の業務利用を認める場合は、保険加入状況の確認を制度として組み込んでおくことが重要である。

よくある失敗例

  • 車両を保有しているにもかかわらず、車両管理規程自体が存在せず、事故発生時の対応が担当者任せになっている
  • 安全運転管理者を選任すべき台数要件を満たしているにもかかわらず、選任・届出を行っていない
  • アルコールチェックの実施記録が保存されておらず、義務化への対応状況を後から確認できない
  • 私有車の業務利用を黙認しているが、任意保険の加入状況を一度も確認していない
  • 事故発生時の連絡先・対応フローが従業員に周知されておらず、初動対応が遅れる

よくある質問(FAQ)

Q1. 営業車が4台しかない場合でも、安全運転管理者を選任する必要がありますか。

乗車定員10人以下の自動車のみを使用しており、その台数が5台未満である場合は、道路交通法上の選任義務は生じないと考えられている。ただし、台数の数え方には自動二輪車の扱いなど細かいルールがあるため、正確な該当性については所轄の警察署や最新の公表資料で確認することが望ましい。また、義務がない場合でも、任意に安全運転管理者に準じた体制を整えることは、事故防止の観点から有効と考えられる。

Q2. アルコールチェックは、対面での確認ができない直行直帰の従業員にも必要ですか。

アルコールチェック義務化の対象は、対面での確認が困難な場合も含めて運用が求められていると考えられており、その場合はカメラやモニター等を利用した確認、携帯型アルコール検知器の携行など、代替的な確認方法を整備することが求められている。具体的な運用要件は法令や警察庁の公表資料で随時示されているため、直行直帰が多い業態では特に最新情報の確認が重要である。

Q3. 従業員の私有車を業務で使わせる場合、会社の任意保険で対応できますか。

会社が加入する任意保険の補償範囲は契約内容によって異なり、従業員の私有車による事故が当然に会社の保険で補償されるとは限らない。私有車を業務利用させる場合は、従業員自身が加入する任意保険の補償内容(対人・対物賠償の限度額等)を確認し、必要に応じて上乗せ保険への加入を検討するなど、個別の保険契約内容に応じた対応が必要である。判断に迷う場合は保険会社や専門家に確認することが望ましい。

まとめ

  • 社有車・営業車を保有する企業は、運転者の資格確認、点検整備、事故対応フロー等を定めた車両管理規程を整備する必要がある
  • 道路交通法上、乗車定員11人以上の車両1台以上、またはその他の自動車5台以上を使用する場合には安全運転管理者の選任義務が生じるとされる
  • 2022年の道路交通法施行規則改正以降、白ナンバー事業者にもアルコールチェックが段階的に義務化されており、最新の要件を確認する必要がある
  • 事故発生時は救護・警察への報告・会社への報告・保険会社への連絡・被害者対応の流れをあらかじめ規程化しておく
  • 使用者責任(民法715条)・運行供用者責任(自賠責法3条)を踏まえ、任意保険の補償内容を定期的に確認する
  • 私有車を業務利用させる場合は、任意保険の加入状況の確認を制度として組み込む必要がある

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - アルコールチェック義務化の適用時期・対象要件(検知器使用義務化の施行時期を含む)について、最新の警察庁公表資料に基づく監修者確認が必要。 - 安全運転管理者・副安全運転管理者の選任要件(自動二輪車の台数換算等の細目)について監修者確認が必要。