自社ECサイトや海外のECモールを通じて、海外の消費者に直接商品を販売する「越境EC」は、中小企業でも取り組みやすい海外展開の手段である。しかし、企業間の輸出と異なり、相手が消費者であるため、相手国の消費者保護法が強行法規として適用され、日本の利用規約で「準拠法は日本法」と定めても排除できない場面がある。また、EU居住者の個人情報を扱えばGDPRの適用も問題になる。本記事では、越境ECで最低限押さえておくべき法規制を整理する。

日本法の適用: 特定商取引法

日本の事業者が運営するECサイトには、販売先が海外の消費者であっても、特定商取引法(特商法)の通信販売に関する規定が適用されると考えられる。具体的には、次の対応が必要になる。

  • 特定商取引法に基づく表示(第11条): 事業者名、住所、電話番号、販売価格、支払時期・方法、引渡時期、返品条件等を表示する
  • 誇大広告の禁止(第12条): 商品の性能等について著しく事実に相違する表示をしない
  • 申込確認画面の表示義務(第12条の6): 最終確認画面で数量・価格・支払時期等を明示する

海外向けサイトを英語等で作成する場合も、これらの表示は日本法上の義務として整備する必要がある。なお、景品表示法や薬機法(化粧品・健康食品等の広告規制)も、日本の事業者による表示である以上、適用を受け得る。

相手国の消費者保護法

越境ECで最も注意すべきは、相手国の消費者保護法である。多くの国では、消費者契約における消費者保護規定を強行法規としており、事業者側が準拠法を自国法と定めても、消費者の居住国の保護規定が適用される。日本の「法の適用に関する通則法」第11条も、消費者契約について消費者の常居所地法の強行規定の適用を認めている。

EU

EUでは、消費者権利指令(2011/83/EU)に基づき、通信販売について次のような保護が定められている。

  • 14日間の撤回権(クーリング・オフ): 消費者は理由を問わず、商品受領から14日以内に契約を撤回できる
  • 契約前情報提供義務: 事業者の身元、商品の主要な特徴、総額、撤回権の存在等を契約前に提供する
  • 追加料金の事前同意: 事前に明示していない追加料金は消費者に請求できない

EU域内の消費者を対象にした販売(EU言語での表示、ユーロ建て価格、EU向け配送等)を行っていれば、EU消費者法の適用対象になると解される可能性が高い。

米国

米国では連邦取引委員会(FTC)の規則に加え、州ごとに消費者保護法が異なる。通信販売については、注文から30日以内(または表示した期間内)に出荷する義務を定めたFTCの規則(Mail, Internet, or Telephone Order Merchandise Rule)がある。また、自動更新(サブスクリプション)については、カリフォルニア州等で明確な同意と解約手続の要件が定められている。

その他の地域

中国、韓国、台湾、東南アジア各国にもそれぞれ消費者保護法があり、返品権や表示義務の内容が異なる。主要な販売先国については、現地の規制を個別に確認することが望ましい。

個人情報保護: GDPRの域外適用

EU一般データ保護規則(GDPR)は、EU域内に拠点のない事業者であっても、EU域内の個人に商品・サービスを提供する場合や、EU域内の個人の行動を監視する場合に適用される(第3条第2項)。越境ECでEU居住者に商品を販売し、氏名・住所・メールアドレス等を取得する行為は、これに該当し得る。

GDPRが適用される場合、次のような対応が必要になる。

  • 適法な処理根拠の明確化: 契約履行、同意、正当な利益等
  • プライバシーポリシーでの情報提供(第13条): 処理目的、保存期間、データ主体の権利等を明示する
  • データ主体の権利対応: アクセス権、削除権、データポータビリティ等の請求に対応する
  • EU域内代理人の指定(第27条): EU域内に拠点がない事業者は、原則としてEU域内の代理人を指定する必要がある(小規模・低リスクの処理には例外がある)
  • 越境移転の適法化: EU域内から日本へのデータ移転は、日本が十分性認定を受けているため、認定の範囲内であれば追加措置なく移転できる

GDPR違反の制裁金は、最大で全世界年間売上高の4%または2,000万ユーロのいずれか高い額と定められており、域外の事業者にも執行の可能性がある。

英国(UK GDPR)、中国(個人情報保護法)、米国カリフォルニア州(CCPA/CPRA)など、他の地域にも域外適用のある個人情報保護法があり、販売先に応じた確認が必要である。

関税・VATの負担と表示

越境ECでは、商品が相手国に輸入される際に関税や付加価値税(VAT)が課される。誰がこれを負担するかを明確にしておかないと、受取時に消費者が想定外の税金を請求され、受取拒否や返品につながる。

方式 内容 消費者側の体験
DAP方式(受取人負担) 関税・VATは消費者が受取時に支払う 受取時に追加請求されるため、事前の明示が必要
DDP方式(事業者負担) 事業者が関税・VATを込みで販売する 追加請求がなく、受取拒否が減る。事業者は相手国の税務登録が必要になる場合がある

EUでは2021年7月から、EU域外からの150ユーロ以下の輸入品について輸入ワンストップショップ(IOSS)制度が導入され、事業者が販売時にVATを徴収して一括納付できるようになった。IOSSを利用しない場合、消費者は受取時にVATと通関手数料を支払うことになる。

なお、日本からの輸出は消費税の輸出免税の対象になるが、免税の適用には輸出許可書等の証憑保存が必要である。

利用規約の設計

越境EC向けの利用規約では、次の点を整理する必要がある。

  • 準拠法・管轄: 日本法・日本の裁判所を指定しつつ、消費者の居住国の強行規定が優先し得ることを認識しておく
  • 返品・返金ポリシー: 相手国の法定返品権を下回らない内容にする
  • 配送・関税: 関税・VATの負担者、配送期間の目安、配送不能時の扱い
  • 商品の適合性: 相手国の製品安全規制や輸入規制により配送できない商品の扱い
  • 言語: 複数言語で規約を用意する場合、正文をどの言語とするか

よくある失敗例

  • 日本語の利用規約をそのまま翻訳し、EUの14日間撤回権を「返品不可」として表示する
  • 関税負担者を明示せず、消費者が受取時に追加請求を受けて受取を拒否する
  • EU向けに販売しながらGDPR対応のプライバシーポリシーを用意していない
  • 相手国で販売が規制されている商品(食品、化粧品、電気製品等)を輸入規制の確認なく販売する
  • 海外ECモールに出店し、モール規約上の責任分担を把握しないまま消費者トラブルに巻き込まれる

よくある質問(FAQ)

Q1. 海外のECモール(Amazon、Shopee等)に出店する場合も同じ規制が適用されますか。

モール経由でも、販売者は日本の事業者であるため、特商法の表示義務や相手国の消費者保護法の適用は基本的に変わらない。ただし、モールが関税・VATの徴収や返品対応を代行する仕組みを提供している場合があり、モール規約で責任分担を確認する必要がある。

Q2. GDPRのEU域内代理人は必ず指定しなければなりませんか。

GDPR第27条は、処理が偶発的で、大規模でなく、センシティブなデータを含まない等の要件を満たす場合に代理人指定義務の例外を認めている。ただし、継続的にEU消費者に販売する場合は例外の適用が難しい場合があり、専門家に確認することが望ましい。

Q3. 越境ECの売上に日本の消費税はかかりますか。

海外の消費者に商品を輸出する取引は、消費税法上の輸出免税の対象になるのが原則である。ただし、免税の適用には輸出許可書等の書類の保存が必要であり、少額貨物の簡易通関でも証憑の整備が求められる。税務上の取扱いは税理士に確認することが望ましい。

まとめ

越境ECは、日本法と相手国法の両方が適用される取引である。

  • 日本の特商法・景表法等は、海外向け販売でも適用される
  • 相手国の消費者保護法は強行法規として適用され、準拠法の合意では排除できない
  • EU居住者に販売すればGDPRの域外適用が問題になり、代理人指定等の対応が必要になり得る
  • 関税・VATの負担者を明示し、受取拒否のリスクを減らす
  • 利用規約は相手国の法定返品権等を下回らない内容にする

サイトを整備する際は、越境EC利用規約テンプレート海外向けプライバシーポリシー(GDPR対応)テンプレート、モール出店時のECモール出店契約書テンプレートも参考になる。国内ECの規制については関連記事「ECサイト運営者が知るべき法律まとめ」を参照されたい。

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 特商法第11条・第12条・第12条の6の条文番号と内容を現行法で確認すること。 - 海外消費者向け販売への特商法の適用範囲について、消費者庁の解釈・監修者の見解を確認すること。 - 通則法第11条の消費者契約特則の適用要件(能動的消費者の除外等)を条文で確認すること。 - EU消費者権利指令の撤回期間(14日)、IOSS制度の閾値(150ユーロ)は最新の制度内容と照合が必要。 - GDPR第27条の代理人指定義務の例外要件は原文と照合すること。