海外との取引で「関税がいくらかかるか」を決めるのは、製品のHSコードである。HSコードを誤ると、本来より高い関税を払うことになったり、逆に過少申告として追徴や罰則の対象になったりする。また、日本が締結する経済連携協定(EPA)を活用すれば関税が減免されるが、そのためには「原産地規則」を満たすことを証明しなければならない。本記事では、HSコードの仕組み、分類の決め方、EPAの原産地規則と証明手続の基礎を整理する。
HSコードとは何か
HSコードは、世界税関機構(WCO)が定める「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約」(HS条約)に基づく商品分類番号である。上6桁は全締約国で共通であり、7桁目以降は各国が独自に細分している。
| 桁数 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| 上2桁 | 類(Chapter) | 大分類(例: 84類は機械類) |
| 上4桁 | 項(Heading) | 中分類 |
| 上6桁 | 号(Subheading) | 国際共通の最小単位 |
| 7桁以降 | 国内細分 | 日本の輸入は9桁(実行関税率表)、輸出は9桁(輸出統計品目表) |
日本の輸入関税率は、この9桁のコードごとに実行関税率表で定められている。輸出先国での関税も、相手国の細分コードによって決まる。
HSコードの決め方
HSコードの分類は、HS条約の「通則」と呼ばれる解釈規則に従って行う。基本的な考え方は次のとおりである。
- 品目の材質・機能・用途を特定する
- 最も具体的に表現している項を優先する(通則3(a))
- 複数の材料からなる物品は、重要な特性を与えている材料で分類する(通則3(b))
- いずれにも分類できない場合は、数字順で最後の項に分類する(通則3(c))
実務上は、税関が公開する「関税率表解説」や「分類例規」、過去の分類事例を参照して判断する。判断が難しい場合は、税関の「事前教示制度」を利用することができる。事前教示は、輸入前に税関に照会して文書で回答を得る制度であり、回答は原則3年間、輸入申告の審査で尊重される。
分類を誤った場合のリスク
HSコードの誤りは、次のような結果を招き得る。
- 過少申告: 本来より低い税率で申告した場合、不足分の関税に加え、過少申告加算税や延滞税が課される
- 過大申告: 本来より高い税率で申告した場合、還付請求は可能だが、期間制限がある
- 輸出先での通関遅延: 相手国税関が分類に疑義を持つと、貨物が留め置かれる
- 輸出規制との連動: 一部の輸出規制はHSコードに紐付いているため、分類誤りが規制の見落としにつながる
EPAと特恵関税
日本は、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、日EU・EPA、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)、日米貿易協定など、多数のEPAを締結している。EPAを利用すると、通常の関税(MFN税率)よりも低い「特恵関税」の適用を受けられる。
ただし、特恵関税を受けるには、その産品が協定で定める「原産地規則」を満たす「原産品」であることを証明する必要がある。単に日本から輸出するだけでは「日本の原産品」とは認められない。
原産地規則の基本
原産地規則は協定ごとに異なるが、原産品と認められる基準は概ね次の3類型に整理される。
| 基準 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 完全生産品 | 締約国内で完全に得られた産品 | 国内で収穫した農産物、採掘した鉱物 |
| 原産材料のみから生産される産品 | 原産材料のみを使って生産した産品 | 国産部品のみで組み立てた製品 |
| 品目別規則を満たす産品 | 非原産材料を使用しても、品目ごとの規則を満たす産品 | 下記参照 |
実務上最も重要なのは3つ目の品目別規則であり、主に次の基準が用いられる。
- 関税分類変更基準(CTC): 非原産材料のHSコードと完成品のHSコードが、一定の桁数(2桁・4桁・6桁)で異なること
- 付加価値基準(VA): 締約国内で付加された価値が、産品の価格の一定割合(例: 40%)以上であること
- 加工工程基準: 特定の加工工程(化学反応、紡績等)を締約国内で行うこと
どの基準が適用されるかは、産品のHSコードごとに協定の附属書で定められている。HSコードの特定が原産地判定の出発点になるのはこのためである。
累積と僅少の非原産材料
多くの協定では、他の締約国の原産材料を自国の原産材料とみなす「累積」の規定や、非原産材料が一定割合以下であれば関税分類変更基準を満たさなくてもよいとする「僅少の非原産材料(デミニミス)」の規定がある。これらを活用することで、原産品と認められる範囲が広がる。
原産地証明の方式
原産品であることの証明方式は、協定により異なる。
| 方式 | 内容 | 主な協定 |
|---|---|---|
| 第三者証明 | 日本商工会議所が原産地証明書を発給 | 日アセアン、日インド等 |
| 認定輸出者自己証明 | 経済産業大臣の認定を受けた輸出者が自ら原産地申告を作成 | 日メキシコ、日スイス等、RCEPでも選択可 |
| 自己申告 | 輸出者・生産者(協定により輸入者も)が自ら原産地申告を作成 | CPTPP、日EU・EPA、日英EPA、RCEPでも選択可 |
自己申告方式は手続が簡便な一方、原産性を裏付ける書類を輸出者自身が整備・保存し、相手国税関からの検認(事後確認)に対応する責任を負う。
書類保存義務
EPAを利用した輸出者は、原産性を証明する書類(部品表、原材料の仕入書、製造工程表、原産地判定の計算書等)を一定期間保存する義務がある。保存期間は協定により異なり、概ね3〜5年程度が定められている。相手国税関から検認を受けた際に書類を提示できないと、特恵関税が取り消され、輸入者が追徴を受ける事態になりかねない。輸入者との契約で、検認対応の協力義務や追徴時の負担を定めておくことも検討に値する。
よくある失敗例
- 部品のHSコードを調べずに完成品のコードだけで申告し、関税分類変更基準の判定を誤る
- 「日本製だから原産品」と考え、原産地規則の確認をしないまま自己申告を作成する
- 原産性の裏付け書類を保存しておらず、相手国税関の検認に対応できない
- 海外OEM先で製造した製品を日本経由で輸出し、日本の原産品として申告してしまう
- 事前教示制度を使わず、通関時に分類を争って貨物が留め置かれる
よくある質問(FAQ)
Q1. HSコードは自社で決めてよいのですか。
輸入申告・輸出申告におけるHSコードは申告者の責任で決定する。通関業者が助言することはあるが、最終的な責任は輸出入者にある。判断が難しい場合は事前教示制度を利用することが望ましい。
Q2. 複数のEPAが使える場合、どれを選べばよいですか。
同じ相手国に対して複数の協定(例: 日アセアンEPA、日ベトナムEPA、RCEP、CPTPP)が使える場合、税率、原産地規則の満たしやすさ、証明手続の簡便さを比較して選択する。協定により税率の引下げスケジュールが異なるため、輸出時点での税率を確認する必要がある。
Q3. 海外で製造した製品を日本経由で第三国に輸出する場合、EPAは使えますか。
日本を経由するだけでは日本の原産品にはならない。製造国と輸出先国の間の協定が使えるかを確認する必要がある。また、日本での保管・積替えのみであれば製造国の原産性は維持されるが、日本で加工を行った場合は改めて判定が必要になる。
まとめ
HSコードと原産地規則は、関税コストを左右する実務上の基礎である。
- HSコードは上6桁が国際共通で、日本では9桁で関税率が決まる
- 分類は通則に従い、判断が難しい場合は税関の事前教示制度を利用する
- EPAの特恵関税を受けるには、協定ごとの原産地規則を満たす必要がある
- 品目別規則は関税分類変更基準・付加価値基準・加工工程基準が中心である
- 自己申告方式では裏付け書類の整備と保存、検認対応が輸出者の責任になる
輸出取引の契約で原産地証明や検認対応の役割分担を定める際は、輸出売買基本契約書テンプレート、個別売買契約書(インコタームズ対応)テンプレート、海外での製造委託において原産地を管理する海外OEM製造委託契約書テンプレートも参考になる。
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[要確認事項] - 事前教示回答の尊重期間(原則3年)は税関の最新の案内で確認すること。 - 各協定の原産地証明方式(第三者証明・認定輸出者・自己申告)の対応関係は、税関・経済産業省の最新一覧と照合が必要。 - 書類保存期間(3〜5年)は協定ごとに異なるため、主要協定について個別に確認し、必要に応じて表を追加する。 - 通則3(a)〜(c)の記載はHS条約の通則原文と照合すること。