海外取引で「銀行から送金を止められた」「相手先への支払が受け付けられない」という事態は、経済制裁が原因であることが多い。ロシアのウクライナ侵攻以降、日本を含む各国の制裁対象は大幅に拡大し、制裁対象者との取引は輸出だけでなく、支払・受取・役務提供にまで広く規制されている。制裁は日本の外為法だけでなく、米国やEUの制裁が日本企業に事実上適用される場面もある。本記事では、外為法の支払規制の仕組み、主要国の制裁の域外適用、取引先スクリーニングの実務を整理する。

外為法による支払規制の仕組み

外国為替及び外国貿易法(外為法)は、貨物の輸出だけでなく、対外的な支払や資本取引も規制している。経済制裁に関係する主な規定は次のとおりである。

規制 根拠 内容
支払規制 外為法第16条 特定の国・地域向けの支払、特定の者への支払に許可を要求
資本取引規制 外為法第21条 特定の者との預金契約、金銭の貸借、証券取得等に許可を要求
役務取引規制 外為法第25条 特定の技術提供、特定の国向けのサービス提供に許可を要求
輸出入規制 外為法第48条・第52条 特定の国向けの輸出、特定の国からの輸入に許可を要求

これらの規制は、外務省・財務省・経済産業省の告示により、対象となる国・地域や個人・団体(制裁対象者)が指定される。国連安全保障理事会の決議に基づくものと、日本が独自に実施するものがある。

資産凍結措置

制裁対象者として指定された個人・団体については、その者への支払や、その者との資本取引が原則として許可制になる。実質的には、指定された者への送金や、指定された者からの資金受領が事実上できなくなる。対象者は外務省のウェブサイトで公表されており、ロシア関連、北朝鮮関連、イラン関連、テロリスト等の類型ごとにリストが整備されている。

銀行の確認義務

外為法第17条は、銀行等に対し、顧客の支払等が規制に抵触しないかを確認する義務を課している。このため、送金依頼時に銀行が送金先や取引内容を審査し、制裁対象に該当するおそれがあれば送金を停止または保留する。「銀行から送金を止められた」というのは、この確認義務に基づく対応である。銀行は疑義がある取引について、取引の目的や最終受益者の説明を求めることがあり、説明できなければ送金は実行されない。

制裁対象は「直接の取引相手」だけではない

制裁の実務で見落とされやすいのが、制裁対象者が直接の取引相手でない場合でも規制に抵触し得る点である。

  • 実質的支配者: 制裁対象者が50%以上を保有する法人は、それ自体が制裁対象として扱われる(米国OFACの「50%ルール」)。日本の資産凍結措置でも、対象者が実質的に支配する法人への支払が問題になり得る
  • 迂回取引: 第三国の企業を経由して制裁対象者に貨物や資金が渡る取引は、迂回輸出・迂回送金として規制の対象になる
  • 最終需要者: 直接の輸出先が非制裁国でも、最終需要者が制裁対象者であれば許可が必要になる

米国・EU制裁の域外適用

米国OFAC制裁

米国財務省外国資産管理局(OFAC)が管理する制裁は、米国人(米国企業・米国市民)に適用されるのが原則である。しかし、次の場合には日本企業も事実上の適用を受ける。

  • 米ドル建て決済: 米ドルの送金は米国の銀行(コルレス銀行)を経由するため、米国の管轄が及ぶ
  • 二次制裁(セカンダリー・サンクション): 制裁対象者と「重要な取引」を行った非米国企業を、米国が新たに制裁対象に指定する仕組み。イラン、ロシア関連で適用されている
  • 米国製品の関与: 米国原産品の再輸出はEARにより規制される

OFACの制裁対象者リスト(SDNリスト)は頻繁に更新されており、日本企業の取引先が突然掲載されることもある。

EU制裁

EUの制裁は、EU域内の企業やEU市民に適用されるが、EU域内に子会社を持つ日本企業は、その子会社を通じてEU制裁の遵守が求められる。また、2023年以降、EUは制裁の迂回防止規定を強化し、EU企業に対して第三国の取引先が制裁対象品目をロシアに再輸出しないよう契約で担保することを求めている(いわゆる「ノー・ロシア条項」)。日本企業がEU企業から製品を購入する際に、この条項への同意を求められる場面が増えている。

取引先スクリーニングの実務

制裁リスクに対応するには、取引開始前と継続中の両方で、取引先を制裁リストと照合する「スクリーニング」を行う必要がある。

スクリーニングの手順

  1. 対象の特定: 取引先企業、その役員・株主、最終需要者、荷受人、決済銀行を特定する
  2. リストとの照合: 日本の資産凍結対象者リスト、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国SDNリスト・エンティティ・リスト、EU制裁リスト、英国OFSIリストと照合する
  3. 実質的支配者の確認: 取引先の株主構成を確認し、制裁対象者による50%以上の保有がないかを確認する
  4. 懸念の兆候の確認: 取引に不自然な点(第三国経由の不明瞭な物流、高額の前払い要求、最終需要者の秘匿)がないかを確認する
  5. 記録の保存: 照合結果と判断根拠を記録し、保存する

継続的なモニタリング

制裁リストは頻繁に更新されるため、取引開始時の一度きりの確認では不十分である。継続取引先については、定期的(月次等)または重要な制裁改正のたびに再照合することが望ましい。商用のスクリーニングツールを利用する企業も多いが、中小企業であれば各当局のリストを手動で照合することから始めることも考えられる。

契約書での手当て

制裁リスクを契約で管理するために、次のような条項を検討する。

  • 制裁遵守条項: 相手方が制裁対象者でないこと、制裁対象者に製品を転売しないことの表明保証
  • 解除条項: 相手方が制裁対象に指定された場合の即時解除権
  • 不可抗力・履行不能: 制裁により履行が違法になった場合の免責
  • 支払条項: 制裁により送金が不能になった場合の代替決済方法または支払義務の停止

よくある失敗例

  • 取引先の企業名だけをリストと照合し、株主や役員が制裁対象者であることを見落とす
  • 契約締結時に照合したきりで、その後リストに追加された取引先との取引を続ける
  • 米ドル建ての送金に米国の管轄が及ぶことを知らず、OFAC制裁対象への支払を試みて口座が凍結される
  • 第三国の商社経由であれば制裁対象国向けでも問題ないと誤解する
  • 銀行から取引内容の照会を受けた際に説明資料を用意できず、送金が長期間保留される

よくある質問(FAQ)

Q1. 制裁対象者から代金を受け取る場合も規制されますか。

資産凍結措置の対象者からの資金受領も、資本取引規制等により許可が必要になる場合がある。輸出代金の回収であっても、相手方が制裁対象者に指定された場合は、受領前に規制の適用を確認する必要がある。

Q2. 制裁対象国に所在する企業とは、一切取引できないのですか。

制裁の内容は国・地域ごとに異なる。全面的な禁輸措置がとられている場合もあれば、特定の品目・分野・対象者に限定されている場合もある。取引の可否は、相手方が制裁対象者か、取引品目が規制対象か、支払経路に問題がないかを個別に確認して判断する必要がある。

Q3. 制裁違反の罰則はどの程度ですか。

外為法違反として、無許可の支払・資本取引には刑事罰(拘禁刑・罰金)が科され得るほか、行政処分の対象にもなる。米国OFAC制裁違反については、巨額の民事制裁金が科された外国企業の事例が多数ある。

まとめ

経済制裁は、輸出だけでなく支払・受取・役務提供を含む取引全体に及ぶ規制である。

  • 外為法は支払規制・資本取引規制・役務取引規制により、制裁対象者との取引を許可制にしている
  • 銀行は確認義務に基づき送金を審査し、疑義があれば停止する
  • 制裁対象者が実質的に支配する法人や迂回取引も規制の対象になる
  • 米ドル決済や二次制裁により、米国の制裁が日本企業に事実上適用される
  • 取引先スクリーニングは取引開始時と継続中の両方で行い、記録を残す

社内手順を整備する際は、経済制裁スクリーニング手順書テンプレート、取引先に遵守を求める輸出管理誓約書テンプレート、決済条件を明確にする代金決済条件合意書(T/T)テンプレートも参考になる。輸出規制の全体像は関連記事「安全保障貿易管理(外為法)の基礎」「米国輸出管理規則(EAR)の再輸出規制」を参照されたい。

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 外為法第16条・第17条・第21条・第25条・第48条・第52条の条文内容と現行の対応関係を監修者が確認すること。 - EUの「ノー・ロシア条項」(第12次制裁パッケージ、規則833/2014第12g条)の導入時期と適用範囲を確認すること。 - 日本の資産凍結措置における「実質的支配」の扱いについて、外務省・財務省の最新の運用を確認すること。 - 外為法違反の罰則額は直近の改正状況と照合が必要。