複数人で共同創業したスタートアップや、投資家が重要事項について拒否権を持つ資本構成では、株主間の意見対立によって重要な意思決定が止まってしまう「デッドロック」が起こり得る。デッドロックは会社の日常業務よりも、増資、代表者の選解任、事業譲渡といった重大な局面で顕在化しやすく、一度発生すると解消に時間とコストがかかる場合がある。本記事では、株主間契約においてデッドロックにどう備えるか、条項の類型とそれぞれの留意点を整理する。
デッドロックとは何か
デッドロックとは、株主間または取締役間で意見が対立し、会社の意思決定に必要な議決(株主総会決議、取締役会決議など)が成立しない状態を指す。典型的には次のような資本構成・機関設計で発生しやすいとされる。
- 共同創業者2名が50:50で株式を保有し、双方の合意がなければ重要事項を決められない設計になっている場合
- 投資家が種類株式やベンチャー投資契約に基づき、増資・M&A・役員選解任などの重要事項について事前承諾権(拒否権)を持っている場合
- 取締役の員数が偶数で、可否同数のまま決議が成立しない場合
デッドロックが起きると、資金調達のタイミングを逃す、代表者の意思決定が滞る、取引先との契約更新が遅れるなど、会社の事業運営そのものに影響が及ぶおそれがある。あらかじめ株主間契約でデッドロックの解消方法を定めておくことは、会社の存続可能性を守るという観点からも重要な予防策の一つと考えられる。
デッドロックが起きやすい局面
実務上、デッドロックが顕在化しやすい局面としては、以下のようなものが挙げられることが多い。
- 増資の実施可否、および増資条件(バリュエーション、発行株式数)についての意見対立
- 代表取締役の選任・解任をめぐる対立
- M&Aやexitのタイミング・条件についての意見の相違
- 事業方針の大幅な転換(ピボット)に関する対立
- 役員報酬や利益配分に関する対立
これらはいずれも会社の将来を左右する重大な意思決定であるため、一度デッドロックに陥ると、株主間の話し合いだけでは解消が難しくなる場合がある。
デッドロック対処条項の主な類型
株主間契約でデッドロックに備える方法として、実務上いくつかの条項類型が紹介されることが多い。それぞれメリットとデメリットがあり、資本構成や株主間の資金力の差を踏まえて選択する必要がある。
| 条項類型 | 仕組みの概要 | 主なメリット | 主なデメリット・留意点 |
|---|---|---|---|
| ロシアンルーレット条項 | 一方の株主が自己の保有株式の買取価格を提示し、相手方はその価格で「自分が売る」か「自分が買う」かを選択する | 提示価格が公正でないと自らが不利になるため、恣意的な低廉価格の提示を抑止しやすい | 資金力に差がある株主間では、資金力のある側が有利になりやすいと指摘される |
| テキサスシュートアウト条項 | 双方が非公開で入札価格を提示し、高い価格を提示した側が相手方の株式を取得する | 双方に価格提示の機会があり、恣意性を抑えやすい | 双方に相応の資金力が必要となる点はロシアンルーレット条項と同様の課題が残る |
| ドラッグアロング(強制売却請求権) | 多数株主が第三者に株式を売却する際、少数株主にも同条件での売却を強制できる | M&Aの機会を逃さず、少数株主の反対でexitが阻害されるリスクを軽減できる | 少数株主の利益保護とのバランス設計が必要(価格の公正性担保など) |
| タグアロング(強制売却参加権) | 多数株主が株式を売却する際、少数株主も同条件で売却に参加できる | 少数株主が不利な条件に取り残されることを防ぎやすい | 買収者側からみると取得株式数が増え、交渉のハードルになる場合がある |
| 第三者機関による仲裁・調停 | あらかじめ定めた仲裁機関や調停手続に紛争解決を委ねる | 感情的な対立を第三者が仲介することで、関係を維持したまま解消できる可能性がある | 手続に時間がかかる場合があり、迅速な意思決定が必要な局面には不向きな場合がある |
| 解散条項 | デッドロックが一定期間解消しない場合に会社を解散する | 最終手段として、株主間の資産関係を清算できる | 事業自体が失われるため、実務上は最終手段として位置付けられることが多い |
ロシアンルーレット条項の設計上の注意点
ロシアンルーレット条項は、価格提示者が「安すぎる価格を提示すれば相手に買われてしまい、高すぎる価格を提示すれば自分が高値で買わされる」という緊張関係を利用して、公正な価格提示を促す仕組みである。理論上は合理的な仕組みとされる一方、実務では次のような点に留意が必要と考えられる。
- 資金調達力に差がある株主間では、資金力のある株主が優位に立ちやすく、公平な条項として機能しないおそれがある
- 発動条件(どのような事態をデッドロックと認定するか)を曖昧にすると、条項の濫用や恣意的な発動につながりかねない
- 発動後の支払期限、株式譲渡手続、表明保証の取扱いなど、実際に条項が発動した場合の細部まで詰めておく必要がある
ドラッグアロング・タグアロングとの組み合わせ
デッドロック解消のための株式買取型条項(ロシアンルーレット、テキサスシュートアウト)と、M&A局面で用いられるドラッグアロング・タグアロングは、目的も発動場面も異なる点に注意したい。前者は株主間の内部的な対立解消を目的とするのに対し、後者は第三者への売却時の株主間の利害調整を目的とする。両者を株主間契約に併せて規定する場合は、発動要件が重複・矛盾しないよう整理する必要がある。
予防策としての持株比率設計
デッドロック条項の設計以前に、そもそもデッドロックが起きにくい資本構成・機関設計にしておくことが基本的な予防策になると考えられる。実務でよく挙げられる工夫は次のとおりである。
- 共同創業者間で50:50の持株比率を避け、いずれか一方が過半数を持つ設計にする、または明確な意思決定権者(例えば代表取締役として最終判断を行う者)を定めておく
- 取締役の員数を奇数にし、可否同数の事態を避ける
- 重要事項について、株主全員一致ではなく、一定の多数決要件(特別多数決など)で決められるよう定款・株主間契約で整理する
- 投資家の拒否権(重要事項の事前承諾権)の対象範囲を必要最小限にとどめ、経営の機動性を損なわないようにする
もっとも、共同創業者の貢献度や出資額が拮抗している場合には、50:50の持株比率が実態に即した選択であることも少なくない。その場合は、持株比率の調整だけに頼らず、デッドロック解消条項を株主間契約に明記しておくことが望ましいと考えられる。
投資家の拒否権とのバランス
ベンチャーキャピタル等の投資家が出資する際、投資契約や株主間契約において、増資、M&A、事業譲渡、多額の借入れ、役員の選解任などの重要事項について、投資家の事前承諾(拒否権)を必要とする条項が設けられることが一般的である。これは投資家が少数株主として自らの利益を守るための仕組みであるが、対象範囲が広すぎると、経営陣の機動的な意思決定を阻害し、実質的にデッドロックに近い状態を招くおそれがある。
拒否権の設計にあたっては、次のような点のバランスを検討する必要があると考えられる。
- 拒否権の対象事項を、会社の根幹に関わる事項(定款変更、清算、大規模な資本政策の変更等)に絞り込むか、経営判断全般に広げるか
- 複数の投資家がいる場合、投資家間で拒否権の内容が重複・矛盾しないように整理すること
- 拒否権の行使に期限(一定期間内に回答がなければ承認とみなす、いわゆるみなし承認条項)を設けるかどうか
デッドロック条項を入れずに契約した場合の実務上の難しさ
デッドロック条項を定めずに株主間契約や合弁契約を締結してしまい、後から対立が生じた場合、実務上は解決が難航しやすいとされる。会社法上の一般的な手続(株主総会での決議、少数株主による代表訴訟等)に頼らざるを得ず、時間とコストがかかる場合が多い。
また、対立が深まった段階で株式の買取交渉を始めても、譲渡価格の算定根拠について合意が得られにくく、感情的な対立も相まって交渉が長期化するおそれがある。デッドロック条項は、平常時、すなわち株主間の関係が良好なうちに取り決めておくことにこそ意味があると考えられる。
よくある質問(FAQ)
Q1. デッドロック条項は必ず株主間契約に入れるべきですか。
会社の資本構成や機関設計によって必要性は異なるが、特に共同創業者間で持株比率が拮抗している場合や、投資家が広範な拒否権を持つ場合には、デッドロック条項を検討することが望ましいと考えられる。一方で、代表株主が明確に過半数を保有し、意思決定権者が明らかな場合は、優先度が相対的に下がる場合もある。自社の資本構成に照らしてどの程度の備えが必要かは、弁護士等の専門家に相談しながら検討することが望ましい。
Q2. ロシアンルーレット条項とテキサスシュートアウト条項はどちらを選ぶべきですか。
一概にどちらが優れているとは言い切れず、株主間の資金力の差、想定される対立の性質、経営への関与度合いなどを踏まえて選択する必要があると考えられる。資金力に大きな差がある場合は、資金力のある側に有利に働くおそれがあるため、他の解消方法(第三者評価機関による価格算定、仲裁手続の活用等)と組み合わせることも検討に値する。
Q3. デッドロック条項を発動すると会社にどのような影響がありますか。
条項の発動は、株式の一方当事者への集中や、場合によっては会社の解散につながる可能性があり、会社の経営体制そのものに大きな影響を及ぼす。そのため、デッドロック条項はあくまで最終手段として位置付け、発動前に協議・調停等による解消を試みる段階的な設計にしておくことが実務上望ましいとされる。発動条件や手続の詳細は、想定される事業リスクを踏まえて弁護士等と確認しながら設計することが望ましい。
まとめ
- デッドロックとは、株主間・取締役間の意見対立により会社の重要な意思決定が停滞する状態を指す
- 対処条項にはロシアンルーレット条項、テキサスシュートアウト条項、ドラッグアロング・タグアロング、仲裁・調停条項、解散条項などの類型がある
- 資金力の差がある株主間では、買取型条項が一方に有利に働くおそれがあり、設計には注意が必要である
- 予防策として、共同創業者間の持株比率設計自体でデッドロックを回避することも基本的な考え方の一つである
- 投資家の拒否権は経営の機動性とのバランスを踏まえて対象範囲を検討する必要がある
- デッドロック条項を定めずに紛争が生じると、株式買取交渉が難航しやすく、平常時からの備えが重要である
株主間契約全体の基本構成については株主間契約とは?共同創業者が知るべき基本条項も参考になる。実際に契約書を作成する場合は、株主間契約書テンプレートをベースに、自社の資本構成に合わせてデッドロック条項を追記・調整することが考えられる。
本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
[要確認事項] - ロシアンルーレット条項・テキサスシュートアウト条項の発動要件・手続の記載が、テンプレート本体の条文案と整合しているか監修者による確認が必要。 - デッドロック条項と投資契約上の拒否権・みなし承認条項との優先関係の記述について、実務動向を踏まえた監修者確認が必要。