複数人で起業する場合、創業初期は熱意と信頼関係で物事が進みやすい一方、株式比率や役割分担、知的財産の帰属などを口約束のままにしておくと、事業が軌道に乗り始めたタイミングや、いずれかの創業者が離脱するタイミングで対立が表面化することがある。このような事態に備えて、複数創業者間であらかじめ取り決めを行う契約は、創業者間契約(ファウンダーズアグリーメントとも呼ばれる)と呼ばれる。本記事では、創業者間契約の必要性と設計のポイントを整理する。
創業者間契約が必要とされる理由
創業者間契約とは、複数人で会社を設立する際に、株式比率、役割分担、意思決定権限、知的財産の会社への帰属、離脱時の株式の取扱いなどをあらかじめ取り決める契約である。会社設立時の定款とは別に、創業メンバー間の具体的な合意事項を明文化する目的で作成される。
創業初期は、各創業者の貢献度や関与度合いが流動的である。エンジニアとして参画したメンバーが早期に離脱する、あるいは当初は業務委託的な関わりだったメンバーが後にフルコミットするなど、状況は変化しやすい。このような変化に対応できるよう、株式の帰属や権利関係をあらかじめ設計しておくことが、後の紛争を予防する観点から重要と考えられる。
創業者間契約を作らずに関係が悪化した場合、実務上は株式の買取交渉が難航しやすいという教訓がしばしば語られる。感情的な対立が生じた段階では、買取価格の算定根拠について合意形成が難しくなり、結果として会社の資金調達や意思決定に悪影響が及ぶこともある。
ベスティングの考え方
創業者間契約の中心的な論点の一つが、ベスティング(段階取得条件)である。ベスティングとは、株式やストックオプションについて、一定期間の在籍・貢献を条件として権利を段階的に確定させていく仕組みを指す。
一般的に紹介される設計例としては、一定期間(例として4年程度)をかけて権利を確定させ、そのうち一定期間(クリフ、例として1年程度)が経過するまでは権利がまったく確定しない、という枠組みが挙げられることが多い。もっとも、具体的な年数や確定比率は会社ごとの事情、業種、資金調達のステージなどによって異なるため、一律の相場があるわけではない点に留意したい。自社に適した設計については、投資家や専門家の意見も踏まえて検討することが望ましい。
リバースベスティングの活用
創業株式にベスティングを適用する手法として、リバースベスティングと呼ばれる仕組みが用いられることがある。これは、株式自体は設立時などに早期に交付しておきながら、一定の条件(在籍期間など)を満たさずに離脱した場合には、会社または他の株主がその株式の全部または一部を買い取れる権利をあらかじめ設定しておく仕組みである。
リバースベスティングを用いる主な狙いは、創業者が事業への貢献が乏しいまま早期に離脱したにもかかわらず、高い持株比率を保持し続けてしまう、いわゆる「デッドウェイト株主」の発生を防ぐことにあるとされる。デッドウェイト株主が生じると、その後の資金調達において投資家から資本政策の整理を求められたり、意思決定に必要な議決権の確保が難しくなったりするおそれがある。
知的財産の帰属の明確化
創業初期に開発されたソフトウェア、デザイン、商標、事業アイデアなどの知的財産権が、誰に帰属するのかを明確にしておくことも創業者間契約の重要な要素である。
職務発明・著作権の取扱い
創業メンバーが個人として開発した成果物であっても、それが会社の事業のために行われたものであれば、会社に権利を帰属させる取り決めをしておくことが望ましいと考えられる。特許を受ける権利に関する職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにより、あらかじめ使用者等に権利を取得させることができるとされている(特許法35条)。著作権については、職務著作の要件(著作権法15条)を満たさない限り、創作者である個人に帰属するのが原則であるため、法人への帰属を明確にするには、著作権譲渡に関する取り決めを別途行っておく必要がある。
初期段階からの整備の重要性
事業が拡大してから知的財産の帰属を整理しようとすると、関係者の記憶や認識にずれが生じ、権利関係の確認に時間を要することがある。創業初期の段階から、職務発明規程の整備や著作権譲渡に関する合意を行っておくことで、後のデューデリジェンスや資金調達の場面でスムーズに対応できると考えられる。
創業者間契約に盛り込む主な項目
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 株式比率とその根拠 | 出資額、業務貢献、既存資産の持ち込みなどを踏まえた比率の設定 |
| 役割分担・意思決定権限 | 代表者、各創業者の担当領域、重要事項の決定方法 |
| ベスティング・リバースベスティング | 権利確定のスケジュール、クリフ期間、離脱時の買取条件 |
| 知的財産の帰属 | 職務発明規程、著作権譲渡に関する取り決め |
| 離脱時の取扱い | 離脱事由(自己都合、解任、死亡等)ごとの株式買取条件 |
| 競業避止・秘密保持 | 離脱後の競合事業への関与制限、秘密情報の取扱い |
これらの項目をあらかじめ整理しておくことで、創業メンバー間の認識のずれを減らし、後のトラブルを予防しやすくなると考えられる。
投資家によるデューデリジェンスとの関係
ベンチャーキャピタル等の投資家が出資を検討する際には、法務デューデリジェンスの一環として、創業者間の合意状況が確認されることが多い。具体的には、創業者間契約の有無、株式比率の根拠、ベスティングの設計、知的財産の帰属の整理状況などが確認対象となる。
創業者間契約が整備されていない場合、投資家からは資本政策の安定性に懸念を持たれる可能性があり、資金調達の条件交渉において不利に働くおそれもある。逆に言えば、創業初期の段階できちんと整理しておくことは、将来の資金調達をスムーズに進める観点からも意味があると考えられる。
契約の見直しタイミング
創業者間契約は、一度作成すれば終わりというものではなく、会社のステージが進むにつれて見直しが必要になる場合がある。たとえば、次のような局面では、既存の創業者間契約の内容が実態と合っているかを確認しておくことが望ましいと考えられる。
- シリーズAなど本格的な外部資金調達を実施するタイミング(投資家を含む株主間契約への統合や整合性確認が必要になることが多い)
- 創業メンバーの役割分担が大きく変わったタイミング(当初の株式比率の前提が崩れている可能性がある)
- 新たに共同創業者的なポジションで参画するメンバーが加わったタイミング
特に外部資金調達の場面では、創業株主間で先に締結していた契約の内容が、投資家を含む株主間契約の内容と矛盾しないかを確認する必要がある。創業者間契約はあくまで創業メンバー間の合意にとどまるため、投資家が入った後の資本政策全体の整合性については、改めて弁護士に確認することが望ましい。
よくある質問(FAQ)
Q1. 創業者間契約はいつ作成すべきですか。
会社設立の直後、できるだけ早い段階で作成することが望ましいと考えられる。株式比率が固まり、まだ具体的な対立が生じていない段階であれば、冷静に合意形成を図りやすい。事業が進み、各創業者の貢献度に差が出始めてから作成しようとすると、利害調整が難しくなる場合がある。
Q2. ベスティングの期間や比率はどのように決めればよいですか。
一般的な設計例として一定期間をかけて段階的に権利を確定させる枠組みが紹介されることは多いが、具体的な年数や比率について画一的な正解があるわけではない。会社の事業ステージ、各創業者の役割や既存の貢献度、想定される資金調達のスケジュールなどを踏まえて個別に検討する必要があり、弁護士等の専門家に相談しながら設計することが望ましい。
Q3. 創業者間契約を結ばずに事業を進めてしまいましたが、後から締結できますか。
後から締結すること自体は可能であるが、その時点までの貢献度や株式比率の妥当性について創業者間で認識の相違が生じている場合、合意形成が難航するおそれがある。既に対立の兆候がある場合は、当事者だけで話し合うのではなく、早期に弁護士等の第三者を交えて協議することが望ましい場合もある。
まとめ
- 創業者間契約は、株式比率、役割分担、知的財産の帰属、離脱時の取扱いなどを複数創業者間であらかじめ取り決める契約である
- ベスティングは、一定期間の貢献を条件に株式の権利を段階的に確定させる考え方であり、具体的な設計は会社ごとに異なる
- リバースベスティングは、早期離脱者が高い持株比率を保持し続けるデッドウェイト株主の発生を防ぐ狙いがある
- 知的財産の帰属は創業初期から明確にしておくことが、後のデューデリジェンスへの対応にもつながる
- 投資家は資金調達時のデューデリジェンスで創業者間の合意状況を確認することが多い
- 創業者間契約を作らずに関係が悪化すると、株式の買取交渉が難航しやすい
創業者間の株式に関するルールを明文化する際は、株主間契約書テンプレート、知的財産の帰属を整理する際は著作権譲渡契約書テンプレートや職務発明規程テンプレートを、それぞれの場面に応じて確認するとよい。
本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
[要確認事項] - ベスティング・リバースベスティングの一般的な年数・比率の例示について、最新の実務相場を踏まえた監修者確認が必要。 - 職務発明規程・著作権譲渡に関する法令解釈(特許法35条、著作権法15条)の記載について、専門家による正確性確認が必要。