障害者雇用促進法に基づく法定雇用率は段階的に引き上げられており、対象となる事業主の範囲も拡大している。従来は法定雇用率を満たしていた企業でも、引上げ後は未達成となり、障害者雇用納付金の負担や雇入れ計画の作成命令の対象となる可能性がある。本記事では、法定雇用率の段階的引上げスケジュール、算定方法の考え方、障害者雇用納付金制度の仕組み、合理的配慮の提供義務への実務対応を、人事労務担当者向けに整理する。
法定雇用率制度の基本的な考え方
障害者雇用促進法は、常時雇用する労働者数が一定数以上の事業主に対し、雇用する労働者に占める障害者の割合が法定雇用率以上となるよう義務付けている。対象となる障害者には、身体障害者・知的障害者・精神障害者が含まれ、雇用状況は毎年6月1日時点で集計し、ハローワークへの報告(障害者雇用状況報告)が義務付けられている。
法定雇用率の算定にあたっては、労働時間に応じたカウント方法(週所定労働時間30時間以上の者は1人、20時間以上30時間未満の者は原則0.5人としてカウントする等)や、重度障害者については加算措置(重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人分としてカウントする等)が設けられているとされ、単純な頭数ではなく、労働時間・障害の程度を踏まえた算定が必要になる点に注意が必要である。
法定雇用率引上げのスケジュール
法定雇用率は、社会情勢や障害者雇用の状況を踏まえて段階的に引き上げられる運用がとられており、直近でも民間企業の法定雇用率の引上げが計画的に実施されてきたとされる。一般的に公表されている引上げの方向性を整理すると、次のようなイメージになる。
| 適用時期の目安 | 民間企業の法定雇用率 | 対象事業主の範囲(常時雇用労働者数) |
|---|---|---|
| 引上げ前の水準 | 2.3% | 43.5人以上規模の事業主が対象 |
| 段階的引上げ(1段階目) | 2.5%程度への引上げ | 対象規模が40.0人以上程度に拡大 |
| 段階的引上げ(2段階目) | 2.7%程度への引上げ | 対象規模が37.5人以上程度に拡大 |
法定雇用率が引き上げられると、これに連動して対象事業主となる従業員規模の下限も引き下げられ、従来は対象外だった中小規模の事業主も新たに障害者雇用義務の対象となる点が実務上の重要なポイントである。自社の労働者数が対象規模の閾値に近い場合、引上げ後に新たに対象事業主となるかどうかを事前に確認しておく必要がある。
なお、上表の数値・時期は制度の方向性を示す一般的な整理であり、正確な適用時期・数値については、厚生労働省の最新の公表情報を確認することが不可欠である。
障害者雇用納付金制度
法定雇用率を達成していない事業主(常用労働者数が一定数を超える事業主)は、不足する人数に応じて障害者雇用納付金を納付する義務を負う。納付金は、月ごとに不足1人あたり一定額を算定して納付する仕組みとされる。
一方、法定雇用率を上回って障害者を雇用している事業主に対しては、障害者雇用調整金や報奨金が支給される制度が設けられている。納付金制度は、障害者雇用に伴う事業主間の経済的負担の調整を目的としており、単なる罰金としての性質ではなく、雇用促進のための財源として機能している点を理解しておく必要がある。
法定雇用率を達成できない状態が続き、かつ実雇用率が特に低い水準にとどまる事業主に対しては、ハローワークから雇入れ計画の作成命令が発せられることがあり、計画の実施状況が悪い場合には、企業名の公表に至る可能性があるとされる。納付金を納付していれば法的な義務を免れるという理解は正確ではなく、雇用率達成に向けた取組み自体が求められている点に留意が必要である。
合理的配慮の提供義務
障害者雇用促進法は、事業主に対し、募集・採用時および雇用後の双方について、障害者が働く上での支障を改善するための合理的配慮を提供する義務を課している。合理的配慮の内容は障害の種類・程度、職場の状況によって異なり、画一的な基準があるわけではないが、一般的に想定される配慮の例としては次のようなものが挙げられる。
- 車椅子利用者のための机の高さ調整や、通路の確保
- 精神障害・発達障害のある労働者に対する、業務指示の明確化やマニュアルの整備
- 聴覚障害のある労働者に対する、筆談やメール等を用いたコミュニケーション手段の確保
- 通院や体調管理のための休暇取得・勤務時間の調整
合理的配慮の提供義務には、事業主の過重な負担にならない範囲でという限定が付されているとされ、企業規模や業種、当該措置の実施が事業活動に及ぼす影響等を考慮して、過重な負担に当たるかどうかが判断されると考えられる。過重な負担に当たると判断する場合には、その理由を障害者本人に説明し、可能な範囲で代替措置を検討することが望ましいとされている。
実務対応のチェックポイント
法定雇用率の引上げに対応するにあたり、企業が確認・準備すべき事項を整理すると、次のようになる。
- 自社の常時雇用労働者数が、引上げ後の対象事業主の範囲に該当するかを確認する
- 現在の障害者雇用率(実雇用率)を算定し、引上げ後の法定雇用率と比較して不足人数を把握する
- 不足が見込まれる場合、採用計画(募集時期、募集経路、職務内容の切り出し)を早期に策定する
- 合理的配慮の提供体制(相談窓口、職場環境の整備、必要な設備投資)を整備する
- 障害者雇用状況報告の提出体制、納付金の算定・納付フローを確認する
- 特例子会社の設立や、複数の事業主による共同事業(算定特例)の活用可能性を検討する
障害者雇用の採用を急に進めようとしても、職務の切り出しや職場環境の整備には一定の準備期間を要することが多い。法定雇用率引上げの適用時期から逆算し、早期に採用・受入れ体制の整備に着手することが実務上重要である。
よくある失敗パターン
障害者雇用率対応をめぐっては、次のような失敗が実務上しばしば見られる。
- 法定雇用率引上げ後に新たに対象事業主となることに気づかず、報告義務や雇用義務への対応が後手に回った
- 障害者雇用状況の算定にあたり、週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者のカウント方法(0.5人カウント等)を誤り、実際の雇用率を過大に見積もっていた
- 合理的配慮の提供を検討する際、障害者本人との対話(意向確認)を経ずに、企業側の判断のみで配慮の要否・内容を決定してしまった
- 納付金を納付していることをもって法的な義務を果たしていると誤認し、実雇用率の改善に向けた採用活動を怠っていた
- 特例子会社制度や算定特例の活用を検討しないまま、単独での雇用率達成にこだわり、採用が難航していた
よくある質問(FAQ)
Q1. 法定雇用率を達成できない場合、必ず納付金を支払えば済みますか。
納付金は法定雇用率未達成の場合の経済的負担の調整制度であり、納付すること自体で法的な義務がすべて解消されるわけではないと考えられる。実雇用率が著しく低い状態が続く場合には、雇入れ計画の作成命令や企業名公表の対象となる可能性があるため、納付金の納付とあわせて、実雇用率の改善に向けた取組みを継続することが望ましい。
Q2. 短時間勤務の障害者を雇用した場合、雇用率にはどのようにカウントされますか。
週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は原則として0.5人としてカウントされ、30時間以上の場合は1人としてカウントされる取扱いが基本とされている。重度障害者については加算措置が設けられている場合があるため、正確なカウント方法については最新の制度内容を確認することが望ましい。
Q3. 合理的配慮は、どこまで対応すれば義務を果たしたことになりますか。
合理的配慮の内容や程度に一律の基準はなく、障害の種類・程度、職場の実情、事業主の規模や負担の程度等を踏まえて個別に判断されると考えられる。過重な負担に当たると判断する場合でも、その理由を説明し、可能な代替措置を検討することが望ましいとされており、対応に迷う場合は専門家や労働局の窓口へ相談することが考えられる。
まとめ
- 法定雇用率は段階的に引き上げられており、これに伴い対象事業主となる従業員規模の下限も引き下げられる
- 法定雇用率を達成できない事業主は障害者雇用納付金の納付義務を負い、著しい未達成が続く場合は雇入れ計画作成命令や企業名公表の対象となり得る
- 合理的配慮の提供義務は、募集・採用時と雇用後の双方に及び、過重な負担にならない範囲での対応が求められる
- 障害者雇用の算定には、労働時間に応じたカウント方法や重度障害者の加算措置など、独自のルールがある
- 採用・受入れ体制の整備には準備期間を要するため、引上げ時期から逆算した早期の対応が望ましい
採用に伴う労働条件の整備には雇用契約書(基本形)や短時間正社員規程が参考になる。
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[要確認事項] - 法定雇用率の正確な引上げ時期・数値(2.5%・2.7%等)および対象事業主規模の閾値について、厚生労働省の最新公表情報に基づく監修者確認が必要。 - 障害者雇用納付金の算定単価、調整金・報奨金の金額水準について、最新の制度内容の確認が必要。