下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、長年にわたり親事業者と下請事業者の取引の公正化を図る法律として運用されてきたが、取引の実態や中小企業の交渉力の格差を踏まえ、対象取引の拡大や規制内容の見直しを含む改正の動きが進んでいる。改正にあわせて法律の名称についても見直しが検討されており、「下請代金支払遅延等防止法」から、中小受託取引の適正化を目的とする名称への変更が議論されている。本記事では、下請法改正の主な論点(名称変更の背景、対象取引の拡大、発注書面の記載事項見直し、支払期日の考え方)を整理し、発注側・受注側それぞれが実務上見直すべきポイントを解説する。改正法の正式名称・施行日・条文内容については、公正取引委員会・中小企業庁の公表資料等の一次情報で確認する必要がある点にあらかじめ留意されたい。

下請法改正・名称変更の背景

現行の下請法は、親事業者と下請事業者との取引において、下請事業者が不利な立場に置かれやすいという構造的な問題に対応するため、資本金区分を基準に規制の対象取引を画定し、代金の支払遅延・減額・買いたたき等の禁止行為を定めている。

もっとも、現行法の資本金区分による適用基準では、次のような課題が指摘されてきたと考えられる。

  • 資本金の額を基準とするため、資本金は小さいが実質的な交渉力を有する企業(投資会社の子会社等)が保護対象に含まれる一方、資本金は大きいが実質的に立場の弱い企業が対象外となる場合がある
  • フリーランス・個人事業主との取引や、業務委託契約全般における取引適正化のニーズが高まっている(フリーランス・事業者間取引適正化等法の制定・施行とも関連する)
  • 「下請」という名称が、対等な事業者間取引であっても一方を従属的な立場と印象づけるとの指摘がある

こうした背景を踏まえ、下請法を改正し、取引の実質(継続的な受託取引か否か等)により着目した規制へと見直すとともに、法律名称についても「下請」という文言を用いない名称(中小受託取引の適正化を目的とする名称)へ変更する方向での議論が進められてきたと考えられる。

対象取引拡大の方向性

現行の下請法は、取引の類型(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)と、発注者・受注者双方の資本金区分の組み合わせによって適用の有無を判断する仕組みを採っている。

現行制度の特徴 改正で見込まれる方向性
資本金区分(発注者・受注者双方の資本金額)を基準に適用可否を判断 資本金基準に加え、従業員数等の実質的な取引力を踏まえた基準の導入が検討されている
取引類型が限定列挙(製造委託等4類型) 対象取引の範囲見直し(業務委託取引全般への拡大等)が議論されている
「下請事業者」という名称 「中小受託事業者」等、対等な取引関係を前提とした名称への変更が検討されている

対象取引が拡大された場合、これまで資本金区分の関係で下請法の適用対象外としてきた取引についても、新たに規制の対象となる可能性がある。発注側の企業としては、現行の資本金基準に基づく適用判定だけに依拠せず、改正内容が確定した段階で、取引先ごとの適用関係を改めて棚卸しする必要が生じると考えられる。

発注書面の記載事項見直し

下請法は、親事業者に対し、下請事業者への発注に際して、給付内容・下請代金の額・支払期日等を記載した書面(3条書面)を交付する義務を課している。改正の議論では、取引のデジタル化やフリーランスとの取引実態を踏まえ、発注書面の記載事項や交付方法についても見直しが検討されていると考えられる。

発注書面に関して実務上確認しておきたい事項は、次のとおりである。

  • 給付の内容(委託する業務の具体的な内容)が明確に記載されているか
  • 下請代金の額(算定方法による記載も含む)が明示されているか
  • 支払期日が具体的に記載されているか
  • 電磁的方法による書面交付(電子メール、専用システム等)を行う場合、下請事業者の承諾を得ているか
  • やり直し・追加発注が生じた場合の書面交付ルールが社内で徹底されているか

改正により記載事項が見直された場合、既存の発注書テンプレートや受発注システムの記載項目も見直しが必要になる可能性があるため、社内フォーマットの管理部署(法務・購買部門等)が改正内容を継続的にフォローしておくことが望ましい。

支払期日の考え方

現行の下請法は、下請代金の支払期日について、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定める義務を親事業者に課している。60日を超える支払期日を定めた場合、その定めは無効となり、受領日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされる取扱いとなっている。

改正の議論では、この60日ルールの水準や、対象取引の拡大に伴う支払期日規制の適用範囲についても論点になっていると考えられる。実務上、支払期日に関して確認しておきたい事項は次のとおりである。

  • 「検収完了日」を起算点とする運用をしていないか(下請法上は「給付を受領した日」が起算点であり、検収の有無にかかわらず起算される点に注意が必要である)
  • 月末締め翌々月払い等、実質的に60日を超える支払サイトになっていないか
  • 手形払いを行っている場合、割引料の負担等が下請事業者に不当に転嫁されていないか
  • 支払遅延が生じた場合の遅延利息(年率14.6%とされている)の計算・支払実務が整備されているか

「検収完了日」を起算点と誤解している企業は少なくないが、下請法上は「給付を受領した日」が起算点であるため、検収に時間を要する業種(ソフトウェア開発等)では特に注意が必要である。

発注側・受注側それぞれが取るべき実務対応

改正の方向性を踏まえ、発注側・受注側それぞれが取るべき実務対応は次のように整理できる。

発注側(親事業者側)の対応: - 取引先ごとの資本金区分・取引類型を棚卸しし、下請法の適用関係を最新化する - 発注書面のフォーマットを見直し、記載事項の漏れがないか確認する - 支払期日の起算点(受領日)を正しく運用しているか、経理・購買部門で再確認する - 減額・買いたたき・返品等の禁止行為に該当する運用がないか、社内マニュアルを整備する

受注側(下請事業者側)の対応: - 発注書面を必ず受領し、記載内容(特に代金額・支払期日)を確認する習慣を徹底する - 支払遅延が生じた場合、遅延利息の請求権があることを認識しておく - 改正により自社の取引が新たに規制対象となる可能性がある場合、取引先との契約条件を見直す機会と捉える

よくある失敗パターン

下請法(改正後の適用も含む)をめぐる実務では、次のような失敗が実務上しばしば見られる。

  • 資本金区分の確認を取引開始時にしか行わず、取引先の増資・組織再編後も適用関係を見直していない
  • 発注書面を交付せず、口頭や簡易なメールのやり取りのみで発注しており、記載事項の要件を満たしていない
  • 支払期日の起算点を「検収完了日」と誤解し、実質的に60日を超える支払サイトになっている
  • 追加発注・仕様変更が生じた際に、書面を交付せず口頭指示のみで対応し、代金額や納期の認識にずれが生じる
  • 改正法の名称変更・適用範囲拡大の報道に接しても、自社の取引が対象になるかどうかの確認を先送りしてしまう

よくある質問(FAQ)

Q1. 下請法の名称が変わると、既存の取引契約書の記載も変更する必要がありますか。

法律名称が変更された場合でも、既存の契約書に「下請代金支払遅延等防止法」という名称を引用している条項があれば、正確性を期すために改正後の名称へ更新することが望ましい。もっとも、名称変更のみを理由に契約が無効になるわけではないと考えられるため、契約更新のタイミングや条項見直しの機会にあわせて修正するのが実務上一般的な対応である。

Q2. 現在は下請法の適用対象外の取引でも、改正後は対象になることはありますか。

対象取引の範囲や適用基準の見直しが検討されていることを踏まえると、現時点で資本金区分等の関係で適用対象外とされている取引であっても、改正後に新たに対象となる可能性は否定できない。改正内容が確定した段階で、自社の取引関係を改めて棚卸しし、適用の有無を確認することが望ましい。

Q3. 支払期日を「月末締め翌々月末払い」としている場合、下請法違反になりますか。

下請法上、支払期日は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があり、締め日と支払日の設定の仕方によっては、実質的な支払サイトが60日を超えてしまう場合がある。例えば月初に納品された給付について翌々月末払いとすると、60日を大きく超える可能性があるため、締め日・支払日の設定を給付受領日ベースで検証する必要がある。個別の取引条件が適法かどうかは、具体的な給付受領日と支払日の関係を確認したうえで判断する必要があり、疑義がある場合は専門家に相談することが望ましい。

まとめ

下請法改正(中小受託取引適正化法への改称・改正)の要点として、押さえておきたいポイントは次のとおりである。

  • 資本金区分による現行の適用基準に加え、取引の実質に着目した基準への見直しが検討されている
  • 法律名称についても、「下請」という文言を用いない名称への変更が議論されている
  • 発注書面の記載事項・交付方法の見直しが検討されており、社内フォーマットの継続的な確認が必要である
  • 支払期日は「給付を受領した日」を起算点とし、60日以内のできる限り短い期間内に定める必要がある(検収完了日を起算点と誤解しないよう注意する)
  • 発注側・受注側いずれも、改正内容が確定した段階で自社の取引関係を棚卸しし、契約条件を見直す必要がある

発注書面・契約条件の見直しにあたっては、下請法遵守誓約書テンプレート下請法発注書面記載要領テンプレート売買基本契約書(下請法対応)テンプレートを活用しながら、自社の発注・受注実務を点検することが有効である。

本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではありません。本記事の内容は執筆・更新時点の法令・裁判例等に基づいており、その後の法改正等により内容が現状と異なる場合があります。本記事の内容に基づいて行った行為の結果について、株式会社リーガリスト(以下「当社」)および監修者は一切の責任を負いかねます。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

[要確認事項] - 下請法改正の正式名称、施行日、対象取引拡大・適用基準見直しの具体的内容は公正取引委員会・中小企業庁の公表資料等の一次情報で要確認。 - 支払期日の起算点(給付受領日)、60日ルール、遅延利息の年率(14.6%)等の数値の正確性について要確認。 - フリーランス・事業者間取引適正化等法との適用関係・棲み分けの記載粒度について監修者確認が必要。